知らなかったでは済まされない!2026年までに整えるべき中小企業のハラスメント対策

知らなかったでは済まされない!2026年までに整えるべき中小企業のハラスメント対策

はじめに

「うちは家族的な会社だから、ハラスメントなんて関係ないよ」

そう話していたA社長の会社で、ある日突然、労働局からの調査が入りました。きっかけは、退職した従業員からの「パワハラ相談」でした。

社長としては「少し厳しく指導しただけ」のつもり。ところが、従業員側は「人格否定のように感じていた」と訴え、心身の不調も発生していました。

さらに、会社には 対応記録も、相談窓口も、就業規則の整備もない――。

今の法律では、パワハラ・セクハラ・妊娠・出産、育児・介護休業等に関するハラスメント対策は、すでに「事業主の義務」として定められています。

さらに、2025年の法改正により、顧客からのクレームなどによる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」対策も、2026年中に全事業主の義務になる予定です。

「知らなかった」
「そんな細かいところまでは見ていなかった」

そう言い訳したくなる気持ちは自然ですが、
経営者として会社と従業員を守るためには、もう後回しにできないテーマになっています。

本記事では、まず「中小企業が直面するハラスメントリスクの全体像」と「2026年までの大きな流れ」を、難しい言葉をできるだけ避けて整理していきます。

1. なぜ今「知らなかった」では済まされないのか

厚生労働省が行った調査では、過去3年以内にパワハラを受けたと回答した人は約2割、パワハラに関する相談件数は年間で数万件規模にのぼっています。

数字だけ見ると「大企業の話?」と感じるかもしれません。しかし実際には、人数が少ない中小企業ほど、「人間関係の密さ」がトラブル時のダメージを大きくする傾向があります。

  • 上司=社長しかいないので、相談しにくい
  • 配置転換や部署異動といった「逃げ場」がない
  • 書面でのルールや記録が残っていない

こうした状況が重なると、たった1件のハラスメントでも、会社全体を揺るがす問題になりかねません。

しかも現在、

  • パワーハラスメント
  • セクシュアルハラスメント
  • 妊娠・出産等に関するハラスメント
  • 育児・介護休業等に関するハラスメント

については、防止措置をとることそのものが事業主の義務とされています。

「やっておいた方がいい」ではなく、
「やっていないと、指導・勧告の対象になりうる」段階に入っている、という認識が必要です。

2. 中小企業が直面する5つのハラスメントリスク

(1)パワーハラスメント

パワーハラスメントは、一般的に「優越的な立場を利用して」「業務上必要な範囲を超えた」言動によって、労働者の就業環境を害する行為と整理されています。

分かりやすく言うと――

  • 人格を否定するような叱責
  • みんなの前で繰り返し怒鳴る
  • 仕事を与えない・隔離する

といった行為が典型例です。

中小企業では、社長やベテラン社員が「昔はこれくらい普通だった」という感覚で強い言葉を使ってしまい、トラブルになるケースが目立ちます。

(2)セクシュアルハラスメント

セクシュアルハラスメントは、本人の意に反する「性的な言動」によって、労働条件で不利益を受けたり、就業環境が害されるものです。

  • 見た目や体型に関する発言
  • 性的な冗談、いわゆる「下ネタ」
  • 不必要な身体接触
  • 職場のPCでアダルトサイトを閲覧する など

「冗談のつもり」「褒めたつもり」が通用しない時代です。
また、同性同士の言動や、LGBTQの方への言動も当然、対象になります。

(3)妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント

ここには、例えば次のようなものが含まれます。

  • 妊娠・出産した女性社員への嫌がらせ
  • 育児休業・介護休業などを取ろうとする社員への圧力

具体例としては、

  • 「そんな時期に妊娠するなんて非常識だ」と繰り返し言う
  • 育休を申し出た社員に、「取るなら昇進はあきらめろ」と告げる
  • 時短勤務の社員に、わざと情報を回さない

といった行為が挙げられます。これらは明確にアウトと考えられる言動です。

(4)顧客からのカスタマーハラスメント(カスハラ)

近年増えているのが、顧客や取引先からの著しい迷惑行為です。

  • 大声での恫喝・長時間の執拗なクレーム
  • 土下座の強要
  • SNSでの過度な晒し行為 など

これまでも各社が自主的に対策を進めてきましたが、
2025年の労働施策総合推進法改正により、カスハラ防止のための雇用管理上の措置が事業主の義務となることが決まり、2026年中の施行が予定されています。

中小企業では、

  • 「お客様は神様だから」
  • 「取引を失いたくないから」

といった理由で従業員を守れないケースが起こりがちです。しかしこれからは、会社として従業員を守る体制を作ることが求められます。

(5)採用場面でのハラスメント

2026年からは、求職者へのセクハラ防止も事業主の義務に含まれる方向で議論が進んでいます。

  • 面接でプライベートを必要以上に詮索する
  • 容姿や家族計画について踏み込んだ質問をする
  • インターン・アルバイトに対する不適切な接触

といった行為も、今後はより厳しく見られることになります。

3. 放置すると会社に何が起きるのか?4つのダメージ

  1. 1. 人材流出・採用難

    ハラスメントが原因で辞めた人の口コミは、想像以上に広がります。
    「あの会社はやめておいた方がいい」と思われると、採用コストが一気に上がります。

  2. 2. 生産性の低下

    被害者だけでなく、周りの人も「見て見ぬふり」を強いられ、職場全体の雰囲気が悪くなります。
    その結果、ミスの増加・モチベーション低下・離職予備軍の増加につながっていきます。

  3. 3. 行政指導・訴訟・損害賠償リスク

    ハラスメント防止措置は、法律上、事業主の義務として位置づけられています。
    相談窓口がない、調査をしていない、再発防止策がない…といった状態が放置されると、行政からの指導や訴訟リスクが高まります。

  4. 4. 経営者・会社の「ブランド」が傷つく

    SNSや口コミサイトでの情報拡散は、一度炎上すると止めづらい時代です。
    取引先・金融機関・応募者など、あらゆるステークホルダーからの信頼低下につながりかねません。

4. 2026年法改正までの流れをざっくり整理

ここでは、経営者・役員の方が押さえておきたいポイントだけを、やさしく整理します。

すでに義務化されているもの

  • パワーハラスメント防止措置(全ての事業主)
  • セクシュアルハラスメント防止措置
  • 妊娠・出産等に関するハラスメント防止措置
  • 育児・介護休業等に関するハラスメント防止措置

これから義務化される予定のもの(2026年前後)

  • 顧客等からのカスタマーハラスメント防止措置
  • 求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止措置

ポイントは、「すでに義務のもの」と「これから義務になるもの」をまとめて、“ハラスメント対策”として設計してしまうことです。

個別に「パワハラだけ」「セクハラだけ」とバラバラに対応すると、ルールが複雑になり、現場も混乱しやすくなります。

5. 今日から始める「最初の一歩」3ステップ

「ここまで読むと、ちょっと気が重くなってきた…」と感じているかもしれません。

でも大丈夫です。
今日から始められる“最初の一歩”は、とてもシンプルです。

ステップ1:会社としての「スタンス」を一文で決める

例:

当社は、パワハラ・セクハラ・マタハラ・パタハラ・カスハラなど
すべてのハラスメントを許さず、従業員を守ることを約束します。

まずは経営トップとして、この宣言文を作りましょう。就業規則や社内掲示、朝礼などで繰り返し伝えることで、「本気度」が伝わります。
(※詳しい文例はDay4で扱います)

ステップ2:今あるルールと実態をざっくり棚卸し

  • 就業規則にハラスメントの項目はあるか
  • 相談窓口・担当者は決まっているか
  • 相談があったときの流れ(誰が調査するか、記録はどう残すか)は決まっているか
  • 顧客クレーム対応の社内ルールはあるか

完璧でなくて構いません。
「どこまでできていて、どこが空白か」を把握するだけでも、大きな一歩です。

ステップ3:相談しやすい“最初の窓口”を1つ決める

中小企業では、

  • 人事部がない
  • 専任担当者を置く余裕がない

というケースがほとんどです。

その場合は、

  • 社長以外の管理職
  • 外部の社会保険労務士や専門家

などを組み合わせて、「まずはここに相談していい」という窓口を1つ決めましょう。

「相談窓口がある」と示しておくだけでも、従業員にとっては“安心材料”になりますし、万が一トラブルが起きた際の「最初の受け皿」にもなります。

6. まとめ+要約

▼この記事の要点

  • パワハラ・セクハラ・妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント対策は、すでに「事業主の義務」として法律で定められている。
  • 2025年の法改正により、カスタマーハラスメント求職者へのセクハラについても、2026年中に防止措置が義務化される見込みである。
  • 中小企業ほど「相談窓口がない」「記録が残っていない」といった理由で、1件のトラブルが会社全体に大きなダメージを与えやすい。
  • まずは
    1. 会社としてのスタンス宣言
    2. 現状の棚卸し
    3. 相談窓口の設計
    の3ステップから始めるだけでも、リスクは大きく下げられる。

7. FAQ(よくある質問)

Q1. うちは従業員が10名以下ですが、それでもハラスメント対策は義務ですか?

A. はい、義務です。
パワハラ・セクハラ・妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメントについては、事業主の規模にかかわらず防止措置が求められています。

Q2. 社長と従業員の距離が近く、冗談も多い職場です。どこからがハラスメントになりますか?

A. 「言った側のつもり」ではなく、受け手がどう感じたかが重要です。
性的な話題や、人格を否定するような発言、妊娠・育児・介護に関する配慮を欠く言動は、冗談や励ましのつもりでもハラスメントと判断される可能性があります。

Q3. まずは何から手をつければいいでしょうか?社内に担当者がいません。

A. Day1でお伝えしたように、

  1. 会社としてのスタンス宣言を作る
  2. 現状の棚卸し
  3. 相談窓口(社内+必要なら外部専門家)の設定

の3つから始めるのがおすすめです。
どのように文言を決めるか、どんな体制が自社に合うかは、専門家に相談しながら進めることで、ムダなく整えることができます。

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