どこからアウト?各種ハラスメントの定義を中小企業向けにやさしく整理【Day2】

どこからアウト?各種ハラスメントの定義を中小企業向けにやさしく整理【Day2】
はじめに
「これくらいは、指導の範囲だよね?」
ハラスメントの話をすると、多くの社長・管理職の方から、こうした声が出てきます。
・売上や品質を守るために、多少きつく言うこともある
・軽い冗談で場を和ませているつもりだった
・本人のためを思って、あえて厳しい言い方をしている
ところが、従業員側から見ると、
・毎回、皆の前で責められているように感じる
・冗談のつもりの一言が、性別や家庭の事情をからかわれているように聞こえる
・妊娠・出産・育児・介護などの話題に、否定的な空気を感じる
と受け止められ、結果として「ハラスメント」として相談・通報されるケースが少なくありません。
Day2では、Day1でお伝えした全体像を一歩進めて、
・法律や指針でどう定義されているのか
・どこからがアウトなのか
・どのあたりが「指導」として許容されるのか
を、できるだけ専門用語を使わずに整理していきます。
「細かい条文は覚えられないけれど、線引きの感覚はつかみたい」という経営者・役員の方に向けた回です。
1. まず押さえたい「ハラスメントの共通ルール」
最初に、細かい種類の前に共通する考え方を押さえておきましょう。
厚生労働省のパンフレットでは、職場のハラスメントについて、
- 働く人の尊厳・人格を傷つける、許されない行為
- 人材の損失や職場秩序の乱れを招く、企業にとってのリスク
- 防止措置をとることが事業主の義務である
と位置づけられています。
そして、種類は違っても、次のような共通点があります。
- 立場の差がある(上司と部下、正社員と非正規など)
- 業務の必要性を超えた言動である
- その結果として相手の就業環境が悪化する
特に重要なのは、「言った側のつもり」ではなく受け手の状況や感じ方も含めて判断されるという点です。
ここから先は、この「共通ルール」を頭の片隅に置きながら、各ハラスメントを見ていきます。
2. パワーハラスメントの定義とNG例・OK例
2-1. 法律・指針上の定義
パンフレットでは、職場におけるパワーハラスメントは、次の3つの要素をすべて満たすものとされています。
- 優位な立場を背景にした言動であること
(役職上の上司だけでなく、経験・スキル・人間関係の力関係なども含まれます) - 業務上必要で適切な範囲を超えていること
(成果を求めるにしても、やり方が行き過ぎていないかが問われます) - 労働者の就業環境を害していること
(継続して不安・恐怖を感じる、仕事に集中できないなど)
この3つを満たす場合に、「パワハラ」と判断される可能性が高くなります。
反対に、客観的に見て業務上必要で、穏当な言い方・方法で行われる指示や指導は、パワハラには当たりません。
2-2. よくあるNG例
中小企業で目立つのは、次のようなケースです。
- 業績が悪い社員に対して、皆の前で人格を否定するような言葉を繰り返す
- 些細なミスでも、その都度大きな声で長時間叱責する
- 気に入らない部下を、理由を明かさず「雑用ばかり」「仕事を与えない」状態にする
- 「辞めてしまえ」「お前はいない方がいい」など、退職を示唆する発言を投げつける
ポイントは、
- 一時的な指導ではなく、継続的・反復的になっていないか
- 仕事のミスではなく、人格そのものを否定していないか
- 周囲の従業員も「見ていてつらい」と感じるような状況になっていないか
などです。
2-3. 指導として認められやすいケース
一方で、次のようなケースは、通常はパワハラとは見なされにくいとされています。
- ミスの内容を具体的に説明し、改善点を一緒に確認する
- 納期や品質を守るため、必要な範囲で注意・指示を行う
- 安全衛生に関わる場面で、危険を避けるために強めの口調になる
ここで大切なのは、
- 事実と行動に焦点を当てているか(人格批判になっていないか)
- 必要な範囲・時間で終わっているか(叱るための叱責になっていないか)
- 指導の目的が明確か(本人の成長や業務改善につながる説明になっているか)
という点です。
同じ内容を伝えるにしても、
「何を」「どの程度」「どんな言い方で」伝えるかによって、ハラスメントかどうかの評価が大きく変わることを押さえておきましょう。
3. セクシュアルハラスメントの定義とNG例・OK例
3-1. 定義のポイント
パンフレットや指針では、職場におけるセクシュアルハラスメントは、ざっくり言うと次の2パターンに整理されています。
- 性的な言動に対する相手の対応によって、人事評価や配置などで不利益を与えるもの
- 性的な言動が繰り返されることで、周りの人も含めて就業環境が悪化するもの
また、近年は次の点も明確にされています。
- 異性だけでなく同性に対する言動も含まれる
- 性的指向・性自認(いわゆるLGBTQ)に関するからかいや否定的な言動も含まれる
3-2. NGになりやすい言動の例
中小企業の現場で問題になりやすいのは、次のようなものです。
- 体型や服装、年齢に関する性的なニュアンスを含む発言
例:「その服、男を意識してるの?」「その年でまだ独身なの?」など - 飲み会や車内などでの下品な冗談・下ネタ
- 肩や腰などへの不必要な接触、ハグの強要
- 「ホモ」「オカマ」「レズ」など、性的指向や性自認をからかう言葉
- 職場のパソコンやスマートフォンでのアダルトサイト閲覧・卑猥な画像の共有
言った側は「場を盛り上げるつもり」「仲が良いから大丈夫」と思っていても、
- 相手が笑って受け流しているように見えても、内心では傷ついている
- 周囲の別の従業員が不快に感じている
ということが多く、結果として「職場全体の就業環境を害する行為」と判断されるリスクがあります。
4. 妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント
4-1. 法律上の位置づけ
この分野は、
- 男女雇用機会均等法(妊娠・出産などに関するハラスメント)
- 育児・介護休業法(育児・介護休業などに関するハラスメント)
で、事業主が防止措置をとることが義務とされています。
イメージとしては、
- 妊娠・出産したこと、あるいはそれに関連する手続きや相談をしたこと
- 育児休業・介護休業などの制度を利用しようとしたこと、利用したこと
をきっかけとして、職場で不利益や嫌がらせを受けることを防ぎなさいというルールです。
4-2. 現場で起こりやすいNG例
中小企業でよく見られるのは、次のような言動です。
- 妊娠・出産に関して
- 「この忙しい時期に妊娠するなんて迷惑だ」と繰り返し言う
- 通院や体調不良による勤務時間の調整に、あからさまに嫌味を言う
- 育児・介護に関して
- 「子どもがいる人には重要な仕事は任せられない」と外し続ける
- 介護休業の相談をした社員に、「この先の昇進は難しい」とほのめかす
- 時短勤務の社員だけ情報共有から外す
- 制度利用そのものへの圧力
- 「休むなら辞めてほしい」と繰り返し伝える
- 制度を使おうとする社員を、皆の前で批判する
また、パンフレットでは、
- 妊娠・出産・育児・介護に関する否定的な言動や
- 「女性はこうあるべき」「男性はこうあるべき」といった固定的な性別役割意識
が、ハラスメントの土壌になりやすいことも指摘されています。
「悪気はなかった」「昔は当たり前だった」という感覚での一言が、
現在の法律・社会の感覚とはズレていることを意識しておくことが重要です。
5. カスタマーハラスメントなど「社外からのハラスメント」
従業員を苦しめるハラスメントは、社内からだけとは限りません。
パンフレットでは、
- 取引先の担当者
- 顧客・クライアント
などからの著しい迷惑行為についても、事業主が取組を行うことが望ましいとされています。
具体的には、
- 大声での長時間のクレーム・恫喝
- 土下座の強要
- 度を超えた謝罪要求や金銭要求
- SNS 等での一方的な晒しや攻撃
などが挙げられます。
中小企業では、「お客様との関係を壊したくない」という思いから、
つい従業員に我慢させてしまいがちですが、従業員を守る体制をつくることも安全配慮義務の一部と考えられています。
カスタマーハラスメントへの具体的な対応や、2026年前後の法制化の動きについては、Day4で詳しく扱います。
6. 経営者・管理職が押さえるべき3つの視点
ここまでの内容を、経営者・管理職の方向けに「判断の物差し」として整理すると、次の3つになります。
視点1:立場の差を意識しているか?
社長・上司・ベテラン社員の言葉は、それだけで重く響きます。
- 人事権を持っている(と思われている)人からの言葉か
- 経験やスキルの差が大きい関係か
- 小さな組織で、逃げ場がない状況か
こうした条件がそろうほど、同じ言葉でもハラスメントと評価されやすくなります。
視点2:業務の必要性を超えていないか?
「業績のため」「品質のため」という目的は大事ですが、
- 感情的になって、一方的な叱責になっていないか
- 同じ内容を、もっと穏やかな言い方で伝えられないか
- 人前で言う必要があったか、個別に伝えられなかったか
を振り返ることが大切です。
後から冷静になって考えたときに「やり過ぎだったな」と感じるようであれば、
それはすでに「業務上の必要な範囲」を超えていた可能性があります。
視点3:相手の就業環境にどんな影響が出ているか?
最後に、
- その言動の結果、相手が萎縮して仕事に支障が出ていないか
- 体調不良・メンタル不調・欠勤や退職の検討などにつながっていないか
- 周囲の人も「見ていてつらい」「いつか自分もこうなるのでは」と感じていないか
といった「影響」を見てください。
ハラスメントかどうかは、言葉そのものだけではなく、その前後の状況や継続性、影響の大きさを総合的に見て判断されます。
逆に言えば、
・立場の差を自覚し
・必要な範囲にとどめ
・相手の就業環境への影響を丁寧に観察する
という3点を意識することで、ハラスメントリスクをかなり下げることができます。
7. まとめ+要約
▼この記事の要点
- 職場のハラスメントは、従業員の尊厳を傷つけるだけでなく、企業にとっても人材流出や評判低下など大きな損失につながる。
- パワハラは「立場の優位性」「業務上必要な範囲を超えた言動」「就業環境の悪化」の3要素がそろったときに成立し、適切な指導は含まれない。
- セクハラは、性的な言動による不利益や就業環境の悪化を指し、同性への言動や性的指向・性自認へのからかいも含まれる。
- 妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメントは、関連する相談や制度利用をきっかけとした不利益や嫌がらせを防ぐことが法律で義務付けられている。
- 顧客・取引先からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)についても、従業員を守るための体制整備が望まれている。
- 経営者・管理職は、「立場の差」「業務の必要性」「就業環境への影響」という3つの視点を意識することで、ハラスメントリスクを大きく減らすことができる。
8. FAQ(よくある質問)
- Q1. 厳しく指導しただけで、ハラスメントのつもりは全くありません。それでも問題になりますか?
-
A. 「つもり」がどうであったかよりも、受け手の状況や影響、周囲から見た客観的な状況が重視されます。業務に必要な範囲で、具体的な行動に焦点を当てた指導であれば問題になりにくいですが、人格否定や長時間の叱責、皆の前での繰り返しの非難などは、ハラスメントと判断される可能性が高くなります。
- Q2. 従業員が「セクハラだ」と言ってきた場合、言った本人はどう対応すべきでしょうか?
-
A. まずは感情的に否定せず、相手の感じたことに耳を傾けることが大切です。「そんなつもりはなかった」「冗談だった」と即座に返すと、かえってこじれることがあります。社内の相談窓口や上長、人事担当者に共有し、会社として事実確認や対応を行う流れを整えておきましょう。
- Q3. 妊娠・育児・介護に関する制度を整えていない状態ですが、どこから手をつけるべきですか?
-
A. まずは、法律で義務付けられているポイント(相談窓口の明確化、相談時に不利益な取り扱いをしないこと、制度の説明と周知など)を押さえる必要があります。そのうえで、自社の規模・業種に合った制度設計を段階的に進めるのがおすすめです。Day4で、就業規則や社内規程の整備方法について具体的に取り上げますので、併せてご覧ください。
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