調達と再委託まで“波及”させる適用実装:社内規程・契約・監査の型と判断ツリー
Day4|調達・再委託を含む“適用の実装”

調達と再委託まで“波及”させる適用実装:社内規程・契約・監査の型と判断ツリー

はじめに

「要件は分かった。だが調達と再委託にどう入れ込むかが難しい」——多くの企業が直面するのは、法務・購買・IT・事業の分断です。Day4では、社内規程→契約→監査→是正のループを一体設計し、★段階をサプライヤ運用に落とし込む具体策を提示します。

キーワードは「適用判断ツリー」「条項テンプレ」「監査オペレーション」。今日のゴールは、明日から実際に調達票契約ドラフトを修正できる状態です。

1. 適用範囲の決め方:ビジネス×システムの二軸で

ビジネス軸(外部影響)

  • 機密情報の有無・量・感度(個人情報・設計図・顧客データ 等)
  • 停止時の影響(売上・サービス停止・法的/契約罰則)
  • 顧客・規制要求の強度(重要顧客、入札条件、監督指針)

システム軸(技術・運用構造)

  • 接続性(社内ネットワーク/VPN/RDP/API/管理画面)
  • クラウド/SaaSの採用と責任分界(共有責任モデル)
  • 再委託の階層数と可視化状況(1次→2次→3次)
結論:二軸の掛け算で“適用の重み”を決め、スコープ宣言書に明記。以降の契約・監査はこの宣言に紐づけて一貫管理します。

2. ★段階の割当フロー(判断ツリー)

  1. 機密性判定:機密情報を扱う / 重要業務に直結 → (★4候補)/その他→(★3)
  2. 接続性判定:内部ネットワークへ持続接続 / 特権操作 → (★4推奨)/メール・ファイル受け渡しのみ → (★3)
  3. 再委託判定:再委託あり→対象拡張(一次に準じた要件)/なし→標準
  4. 顧客・規制要求:特定の段階が契約・入札条件に明示→優先
このツリーで出た“候補段階”を、調達票・RFP・契約ドラフトの冒頭に明記します(例:「本契約における情報セキュリティ到達水準は★3」または「★4」)。

3. 社内規程の整備:責任分界・委託・再委託の原則

社内規程は法務規程情報セキュリティ基本規程の二段で整備します。要点は次の3つです。

  • 責任分界:クラウド/委託/共同運用の役割(設定・監視・ログ保全・脆弱性対応・バックアップ・復旧)を明文化。
  • 委託・再委託の原則:対象条件(機密情報/BCP重要/内部接続可)に当たる場合の許容条項・点検頻度・是正フロー。
  • 例外管理:MFA例外・パッチ猶予・ログ短縮等の期限付き承認と代替策、役員承認ライン。
【規程サンプル抜粋】
第○条(クラウド利用の責任分界)
1.本社は設定基準、監視、ログ保全、脆弱性対応SLA、バックアップ、復旧手順を定め、委託先に遵守させる。
2.提供事業者の責任範囲を確認し、利用者責任部分は本規程および契約で担保する。

第○条(委託・再委託)
1.機密情報取扱/BCP上重要/内部接続可の条件に該当する取引先は年1回以上の点検対象とする。
2.再委託を行う場合、事前承認を要し、一次に準じた要件を課す。
      

4. 契約条項テンプレ:要求・監査・再委託・インシデント

以下は委託基本契約/個別契約/SLA付属書に織り込む条項のドラフトです。自社の実情・顧客要件に合わせて数値・範囲を調整してください。

4-1. 到達水準(★段階)と遵守

(例)第○条(情報セキュリティ到達水準)
1.受託者は、甲の指定するサプライチェーン対策評価制度における★[3または4]の水準を満たす。
2.受託者は、当該水準の維持・更新のため、甲の要請に応じ関連記録を提示する。
      

4-2. 監査権(訪問・リモート・抜取)

(例)第○条(監査)
1.甲は、事前通知のうえ受託者に対し、訪問またはリモートにより、本契約に関する
   (i)設定、(ii)ログ保全、(iii)脆弱性対応、(iv)バックアップ、(v)再委託管理
   の状況を確認できる。
2.監査で指摘された事項について、受託者は相当期間内に是正し、証跡を提出する。
      

4-3. 再委託の制限と条件

(例)第○条(再委託)
1.受託者は、再委託を行う場合、事前に甲の書面承諾を得る。
2.再委託先には本契約と同等の義務(到達水準・監査・インシデント通知等)を課し、その履行を監督する。
3.再委託先の違反は受託者の違反とみなす。
      

4-4. インシデント通知と対応

(例)第○条(インシデント)
1.受託者は、機密性・完全性・可用性に影響する事象を知り次第、[X時間]以内に甲へ一次報告する。
2.受託者は、封じ込め・根絶・復旧・再発防止の進捗を[Y時間〜Z日]間隔で報告する。
3.最終報告には原因・影響・再発防止策・証跡を添付する。
      

4-5. 設定・ログ・バックアップの最小要件

(例)付属書(最小要件)
・MFA:特権・外部接続IDは必須。例外は期限付き承認と代替策を要す。
・脆弱性:重大CVEは基準SLA内に是正。例外時はリスク低減策を実施。
・ログ:保存期間・改ざん耐性を定め、提出方法(サンプリング)を合意。
・バックアップ:隔離保存と復元演習(テーブルトップ/限定実機)を定期実施。
      
落とし穴:条項だけ“強く”しても運用が追いつかないと形骸化します。契約⇔監査⇔是正のリードタイムをKPI化し、四半期でレビューする体制とセットで導入を。

5. 監査オペレーション:点検の実行と是正フォロー

5-1. 年次点検の流れ

① 対象抽出:機密・BCP・内部接続の条件に合致する先を台帳から抽出
② 事前通知:要求水準(★)・提出物・日程・サンプリング範囲を提示
③ 実査:設計ではなく運用証跡(チケット・変更・ログ・復元演習)を中心に確認
④ 指摘:優先度と期限を明示/相互合意
⑤ 是正確認:完了証跡の提出→再点検→クローズ

5-2. 提出物テンプレ(抜粋)

  • 方針・規程(改定履歴・教育記録)
  • 資産・接続(最新台帳・ネットワーク図・管理画面一覧)
  • アクセス(ID台帳・MFA適用状況・入退社ログ)
  • 脆弱性(検出→是正→検証のチケット、重大CVEのSLA遵守)
  • バックアップ(隔離設定・復元演習の結果と是正)
  • ログ(保存期間・改ざん耐性・抽出手順)
識別子(Ticket-ID / Change-ID / Asset-ID / Contract-ID)で相互参照できると、短時間の抜取でも再現性が示せます。

6. KPIとダッシュボード:役員会で回す“赤→黄→緑”

  • サプライヤ点検完了率:100%(条件に合致する先)
  • 是正期限遵守率:95%+(高リスクは最優先)
  • 例外の期限切れゼロ:0件(MFA・パッチ・ログの例外)
  • 復元演習達成:四半期1回+(失敗と是正の記録重視)
  • 監査指摘の再発率:前年対比↓(恒常対応の有効性)
運用メモ:ダッシュボードは「リードタイム」(検知→是正→再評価)と「例外の消し込み」を中心に据えると、経営判断が速くなります。

7. まとめ

  • 適用範囲はビジネス×システムの二軸で定義し、スコープ宣言に落とす。
  • ★段階は判断ツリーで割当し、RFP・契約の冒頭に明記する。
  • 契約は到達水準・監査・再委託・インシデント・最小要件で構成し、数値は自社運用に合わせて調整。
  • 監査は運用証跡を見に行き、是正リードタイムをKPIで管理する。
  • ダッシュボードは例外ゼロ・遵守率・再発率を軸に役員会で回す。
1分で要点を再確認

条項を強くするより、契約⇔監査⇔是正のサイクルを回す設計が本丸。判断ツリーで★段階を決め、スコープ宣言→契約→監査→KPIまでを一本化すると、再委託まで“波及”します。

8. FAQ(3問)

Q1. すべての取引先に同じ段階(★)を要求すべき?
A. いいえ。機密性・接続性・再委託の条件で層別化し、重要先にはより高い段階、その他は★3の土台を求めるのが現実的です。
Q2. 条項を強くすると取引が進まないのでは?
A. 強度ではなく実装可能性が肝心です。最小要件+KPI+猶予の代替策(期限付き例外)をセットにすると前進します。
Q3. 再委託先まで把握するのは難しい…
A. 階層台帳(一次→二次→三次)をContract-IDで連結し、対象条件に合致する先だけ点検・是正のループに乗せると運用可能です。

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