【実務編】2025年通勤手当の非課税限度額改正にどう対応する?年末調整までの5ステップ

【実務編】2025年通勤手当の非課税限度額改正にどう対応する?年末調整までの5ステップ
2025年4月に遡って引き上げられる、マイカー・自転車通勤者の通勤手当の非課税限度額。 「結局、年末調整までに何をしておけばいいの?」という中小企業の経営者・経理担当者の方に向けて、 今日からできる実務ステップを5つに分けて解説します。
はじめに
Day1では、「何がどう変わるのか」という全体像を整理しました。
今日のDay2では、さらに一歩進んで、
「では、年末調整までに会社として具体的に何をすればよいのか?」
という、実務に直結するステップをお伝えします。
ゴールはシンプルです。
- 年末調整の直前・直後にバタバタしない
- 「やるべきことはやった」と自信を持って言える状態にする
そのために、この記事では5つのステップで考えていきます。
今から年末調整までの全体スケジュール感
今回の通勤手当の改正は、
- 2025年11月20日施行
- 2025年4月1日以後に支払われるべきマイカー・自転車通勤者の通勤手当に遡って適用
という形で行われます。
そのため、2025年分(令和7年分)の年末調整においては、
- 旧限度額を超えたために課税扱いにしていた部分が
- 改正後の新限度額の範囲内になる
というケースでは、年末調整での調整が必要になる可能性があります。
特に、2025年4月以降も継続してマイカー・自転車通勤者へ通勤手当を支給している会社は、 年末調整の準備と並行して「通勤手当の見直し」がテーマになると考えておくと安心です。
ステップ1:対象者を洗い出す(マイカー・自転車通勤者のリスト化)
まずは、「誰が今回の改正の“対象になり得るか”」を把握するところから始めます。
チェックしたい主な項目は次のとおりです。
- マイカー通勤・自転車通勤をしている従業員の一覧
- 片道通勤距離(km)
- 通勤手当の支給額(月額)
- 通勤経路に高速道路・有料道路を含むかどうか
給与ソフトや勤怠システムから、CSVやExcelで一覧を出力しておくと、 この後の作業が格段に楽になります。
ここでは、「ざっくりリスト化する」だけで構いません。 細かい金額の確認は、ステップ3で行っていきます。
ステップ2:新旧の非課税限度額を確認する
次に、新しい非課税限度額を正しく押さえることが必要です。
- 最新のマイカー・自転車通勤者の非課税限度額は、 国税庁のタックスアンサー「マイカー・自転車通勤者の通勤手当」で公開されています。
- そこには、片道距離ごとの1か月当たりの非課税限度額が表形式で示されています。
また、国税庁の「通勤手当の非課税限度額の改正について」のページでは、
- 距離ごとに「改正前の非課税限度額」と「改正後の非課税限度額」が並べて掲載
- どの距離帯で、どれくらい上限が上がったかが一目でわかるように整理
という形で案内されています。
なお、具体的な金額の表については、 今後も見直しや改定が入る可能性があるため、必ず国税庁サイトで最新情報を直接確認してください。
ステップ3:4月以降の支給額と新限度額を比較する
ここが実務上の「山場」となる部分です。
イメージしやすい簡易フローは次のとおりです。
1. 4月以降の通勤手当の情報を整理する
従業員ごとに、2025年4月支給分〜年末までの情報を一覧にします。
- 通勤手当の支給月数
- 各月の支給額(合計でも可)
- 通勤距離(km)
2. 通勤距離ごとの「新しい非課税限度額(月額)」を確認する
ステップ2で確認した国税庁の表から、 各従業員の通勤距離に対応する新しい非課税限度額(月額)を拾います。
3. 各月の支給額と新限度額を比較する
各従業員について、
- 各月の支給額が新限度額の範囲内か
- 新限度額を超えているか
を確認します。
ここで重要なのは、「旧限度額は超えていたが、新限度額の範囲内になった部分」がないかどうかです。
4. 「本来非課税になるはずだった部分」を把握する
もし、「旧限度額を超えていたため課税していたが、新限度額の範囲内に収まる金額」がある場合、
- その部分は、本来であれば非課税として扱えるようになった部分
- 年末調整で、源泉所得税の過不足を精算する対象になり得る
という整理になります。
このあたりの具体的な計算方法は、国税庁の
- 「年末調整がよくわかるページ(令和7年分)」
- 「令和7年分 年末調整のしかた」
などに、順次具体例が掲載されていく想定ですので、 最新の手引きを必ず確認してください。
ステップ4:年末調整での反映方法のイメージ
ここでは、あくまで「イメージとしての流れ」をお伝えします。 個別の計算は必ず顧問税理士・税務署など専門家に確認してください。
1. 「旧限度額超過分」と「新限度額内になる分」を分ける
2025年4月以降支給分のうち、
- 旧限度額を超えて課税扱いにしていた部分
- そのうち、新限度額の範囲内に収まることになった部分
を区別します。
2. 課税給与の見直しのイメージ
新限度額の範囲内になった部分については、 本来は非課税扱いになるため、その分だけ課税給与を減らす方向の調整が発生します。
結果として、
- 源泉徴収していた所得税が取りすぎになっている場合は、年末調整で還付
- 不足している場合は、年末調整で追加徴収
という形になります。
3. 給与ソフト・手書き帳票への反映
国税庁の年末調整の手引きでは、
- 源泉徴収簿の記載例
- 給与所得者の扶養控除等申告書との関係
- 年末調整計算の流れ
などが示されます。
多くの給与ソフトでは、バージョンアップにより通勤手当改正への対応が組み込まれると考えられますが、 「どの従業員が対象になるのか」を把握しておくのは会社側の仕事です。 ソフトに任せっぱなしにせず、元データの確認を忘れないようにしましょう。
ステップ5:従業員への説明と社内ルールの見直し
最後に忘れがちなのが、従業員への説明と社内ルールの整備です。
従業員への説明のポイント
従業員への説明では、最低限次の点を押さえておくと安心です。
- 今回の改正は、マイカー・自転車通勤者の通勤手当の非課税限度額が引き上げられたことであること
-
その結果として、
- 年末調整で源泉所得税が戻ってくる可能性がある人もいれば
- 逆に追加で納める人が出る可能性もあること
- 法律に基づく見直しであり、会社が任意に操作しているものではないこと
これらを、短くわかりやすい言葉で伝えることで、 「会社が勝手に税金を増やしたのでは?」といった誤解を防ぐことができます。
社内ルールの見直し例
今回の改正をきっかけに、次のような点も見直しておくと良いでしょう。
-
就業規則・賃金規程の「通勤手当」の条文に、
- 「所得税法上の非課税限度額の範囲内で支給する」
-
通勤届のフォーマットに、
- 「片道距離」
- 「通勤経路」
- 「通勤方法」
こうした整理をしておくことで、次の改正が来たときにも慌てにくい体制を作ることができます。
まとめ・要点整理
この記事のポイント
- 改正の実務対応は、 ①対象者の洗い出し → ②新旧限度額の確認 → ③4月以降支給分との比較 → ④年末調整への反映 → ⑤従業員説明・ルール見直し の5ステップで整理できる。
- 国税庁のタックスアンサー・「通勤手当の非課税限度額の改正について」・年末調整の手引きを確認しながら、 自社の通勤手当の支給状況と照らし合わせることが重要。
- 今のタイミングで準備しておくことで、 年末調整時の混乱や、従業員とのトラブルを大きく減らすことができる。
Day1とDay2の内容を合わせて読めば、 「制度として何が変わるのか」と「実務としてどう動けばよいのか」が一通り整理できるようになっています。 あとは、自社の実情に合わせて、少しずつチェックリストを進めていくだけです。
FAQ
- Q1. 途中で退職した従業員(例:2025年9月退職)についても、今回の改正は関係しますか?
-
4月以降にマイカー・自転車通勤の通勤手当を支給している場合には、 その人についても改正の影響を受ける可能性があります。
一般的には、年末調整の対象外となった従業員は、 本人が翌年の確定申告で精算することになります。 退職時の源泉徴収票の記載内容も含めて、 個別のケースは必ず顧問税理士など専門家に確認してください。
- Q2. 給与ソフトが自動対応してくれるなら、特に何もしなくてよいですか?
-
給与ソフトが改正に対応してくれることは多いと思われますが、 「どの従業員が対象になるのか」「通勤距離や支給額の登録内容が正しいか」は、 会社側で把握しておく必要があります。
ソフト任せにすると、元データの誤りがそのまま反映されてしまうリスクがあります。 ステップ1〜3のように、対象者と支給額、距離の情報を整理する作業は、ソフトとは別に行っておくことをおすすめします。
- Q3. この通勤手当の改正だけでなく、他の税制改正も一緒に把握した方がいいですか?
-
国税庁の「年末調整がよくわかるページ」や「源泉徴収のあらまし」には、 その年の主な改正点が一覧で掲載されます。
今回の通勤手当だけでなく、 基礎控除・配偶者控除・各種保険料控除など、他の改正も合わせて確認しておくことで、 年末調整全体の見通しが立てやすくなります。
個別の状況で相談したい方へ
通勤手当の改正は、会社の規模や業種、従業員の通勤パターンによって、 必要な対応が変わってくるテーマです。
「このケースはどう扱えばいい?」「うちの規程はこのままで大丈夫?」など、 実際に手を動かし始めると、細かい疑問が出てくると思います。
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