サイバーリスクとは?中小企業・個人事業主がまず押さえたい4つの領域【年末前に整理】

サイバーリスクとは?中小企業・個人事業主がまず押さえたい4つの領域【年末前に整理】
Day1では「なぜ年末にサイバーリスクが高まるのか」を見てきました。Day2では、一歩引いて「そもそもサイバーリスクとは何か?」を、経営者や個人事業主の方にもわかりやすく整理していきます。
はじめに:サイバーリスクは「ITの専門用語」ではなく「経営のリスク」
「サイバーリスク」と聞くと、どんなイメージが浮かびますか?
- コンピュータウイルスに感染すること?
- ハッカーに攻撃されること?
- パスワードを盗まれること?
どれも間違いではありませんが、少し視点を変えると、もっとシンプルに整理できます。
サイバーリスクとは、
「サイバー攻撃や人為的ミスなどが原因で、
会社のITシステムやデータに問題が起きたときに
会社が受けるかもしれないダメージ(損失)のこと」
つまり、攻撃そのものではなく、「その結果として会社にどんな悪影響が出るか」まで含めて考えるのがポイントです。
経済産業省とIPAがまとめた「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」でも、
サイバーリスクは経営者が責任を負うべき経営リスクとして取り上げられています。IT 部門だけの話ではなく、経営のテーマとして向き合う必要がある、という考え方です。
目次
4-1. サイバーリスクとは何か?経営者向けのシンプルな定義
海外の定義では、サイバーリスクはよく次のように説明されています。
「サイバー攻撃や人為的ミスをきっかけに、
組織の情報システムが侵害されることで生じる
経済的・業務的・信用面の損失リスク」
ポイントは2つです。
- きっかけは、攻撃(外部から)だけでなく、人のミス(内部)も含まれること
- 影響は、情報漏えいだけでなく、業務停止・金銭的損失・評判や法的な問題まで広がること
ですから、サイバーリスクを整理するときは、技術用語だけで考えるのではなく、
「自社の事業にとって、何が止まると困るのか」
「何が外に出てしまうと困るのか」
「何が失われると、売上や信頼に影響が出るのか」
といった観点で考えていくと、経営の言葉に落とし込みやすくなります。
4-2. サイバーリスクの4つの領域:情報・業務・お金・信頼
ここでは、サイバーリスクを経営者・個人事業主にも分かりやすいように、
次の4つの領域に分けて整理してみます。
- 情報のリスク
- 業務継続のリスク
- お金(財務)のリスク
- 信頼・法的なリスク
① 情報のリスク(情報が「盗まれる・壊される・勝手に公開される」)
まずイメージしやすいのが、情報そのものに関するリスクです。
- 顧客情報(氏名・住所・メールアドレス・購入履歴など)が漏れてしまう
- ID・パスワード、クレジットカード情報が盗まれる
- 見積書や契約書などの取引情報が外部に出てしまう
- 設計書やノウハウなど、自社の機密情報がコピーされる
情報漏えいは「ニュースになりやすい」のでイメージしやすいですが、
実際には「情報が消される・壊される」ことも大きなリスクです。
- ランサムウェアによって、社内サーバーのデータが暗号化されて読めなくなる
- バックアップをちゃんと取っておらず、復旧できない
② 業務継続のリスク(システム停止や業務中断)
2つ目は、「仕事そのものが止まってしまうリスク」です。
- 基幹システムが止まり、受発注・請求業務ができなくなる
- ネットワークが止まり、リモートワークやクラウドサービスが使えない
- ECサイトや予約サイトがダウンし、注文・予約が受けられない
情報は残っていても、「システムが動かず、仕事ができない」状況は、
売上やブランドに大きく影響します。
③ お金(財務)のリスク(直接的・間接的な損失)
3つ目は、お金に関するリスクです。大きく「直接的な損失」と「間接的な損失」に分けられます。
直接的な損失の例
- 不正送金・ビジネスメール詐欺による振り込み被害
- 不正アクセスによるポイント・電子マネーの不正利用
- サイバー攻撃を受けた後の、専門家・ベンダーへの緊急対応費用
間接的な損失の例
- システム停止による売上機会の損失
- 業務復旧にかかる人件費(本来の仕事ができない時間)
- 追加のセキュリティ製品・サービス導入費用
日本の調査では、中小企業のサイバーインシデント1件あたり平均被害額が数十万円台で、
中には100万円以上・数百万円規模となるケースも報告されています。規模の小さい会社ほど、1回の損失の重みは大きくなります。
④ 信頼・法的なリスク(評判・取引先・法令対応への影響)
4つ目は、信頼や法令に関するリスクです。
- 顧客・取引先からの信用低下(「この会社は大丈夫か?」という不安)
- 取引先からの監査や、セキュリティ要件の厳格化
- 個人情報保護法などに関する報告義務・行政対応
特に、サプライチェーンの一員である中小企業が攻撃の踏み台にされ、
その先の大企業や自治体が被害を受ける「サイバードミノ」の事例も指摘されています。
自社の被害だけでなく、取引先やその先の企業への影響も想定しておく必要があります。
こうした背景から、国のガイドラインでも、サイバーリスクは
「経営者が責任を持って管理するべき経営リスク」と位置づけられています。
4-3. 数字で見る「中小企業のサイバーリスク」の現状とよくある誤解
ここからは、日本の調査結果をベースに、
中小企業のサイバーリスクの現状を簡単に見てみます。
1. インシデントは「レアケース」ではない
IPA(情報処理推進機構)の調査では、
過去数期の間にサイバーインシデント(何らかのセキュリティ事故)が発生した企業では、
- 1件あたり平均被害額はおよそ70万円台
- そのうち約1割の企業が100万円以上の被害
- 復旧に要した平均日数は約6日(中には数十日〜数百日というケースも)
といった結果が報告されています。
また、民間調査では、直近1か月以内にサイバー攻撃を受けた(可能性も含む)と回答した中小企業が約7%というデータもあり、
「たまにニュースになる特殊なケース」ではなく、今この瞬間にも多くの企業が攻撃を受けていることが分かります。
2. 体制整備が追いついていない企業も多い
経済産業省とIPAの調査では、
- 約7割の中小企業が「組織的なセキュリティ体制が整備されていない」
- 過去3年間にサイバー攻撃被害に遭った中小企業のうち、約7割で取引先にも影響が及んでいる
という実態も報告されています。
つまり、
多くの中小企業は、まだ万全な体制とは言えない状態にあり、
1社が被害を受けると、その取引先にも波及しやすい
というのが現状です。
3. よくある「3つの誤解」
こうした数字を踏まえると、次のような考え方は、残念ながらリスクが高いと言えます。
- 「うちは小さい会社だから狙われない」
→ 実際は、対策が手薄な中小企業が狙われやすいという傾向が指摘されています。 - 「クラウドを使っているから大丈夫」
→ サービス自体が安全でも、「弱いパスワード」「多要素認証なし」など人の運用面から破られるケースが多くあります。 - 「年に一度、ウイルス対策ソフトを見直せば十分」
→ 攻撃手法は日々変化しているため、年1回ではなく、日常的なルール・運用が重要です。
Day2の段階では、
「サイバーリスク=ITの設定だけの話」ではなく、
「情報・業務・お金・信頼」にかかわる経営全体のテーマ
と捉え直していただければ十分です。
4-4. 自社のサイバーリスクマップを作る簡単3ステップ
ここからは、難しいツールを使わずに、
紙とペン、あるいはExcelなどでできる簡易リスクマップの作り方を紹介します。
ステップ1:守りたいものを4つの領域で棚卸しする
まず、先ほどの4つの領域ごとに、「自社にとって大事なもの」を書き出してみましょう。
| 領域 | 自社にとって大事なものの例 |
|---|---|
| 情報 | 顧客リスト、売上データ、仕入れ先リスト、契約書、設計図、従業員情報 など |
| 業務 | 受発注システム、会計・給与システム、予約サイト、製造ライン、コールセンターの仕組み など |
| お金 | ネットバンキング、請求・入金管理、EC決済、ポイント・電子マネー など |
| 信頼・法務 | 主要な取引先との関係、業界団体とのつながり、個人情報保護法等の順守事項 など |
完璧である必要はありません。
「これだけは守りたい」というものを、各領域から2〜3個ずつ挙げてみてください。
ステップ2:「何が起きると困るか」を簡単な言葉で書き出す
次に、それぞれについて「どんなことが起きると困るか」を、シナリオとして書いてみます。
| 対象 | 起きると困ること(シナリオ) |
|---|---|
| 顧客リスト |
外部に漏えいし、お客様にお詫びや説明が必要になる。 競合他社に情報が渡り、取引を失う可能性がある。 |
| 受発注システム |
繁忙期にシステムが止まり、注文が受けられなくなる。 納期遅延でクレームが増える。 |
| ネットバンキング | 不正送金で、知らない口座にお金が振り込まれてしまう。 |
ここでは、技術用語よりも、「現場で実際に困ること」をそのままの言葉で書くのがポイントです。
ステップ3:「今やっている対策」と「まだ手を付けていない部分」を分ける
最後に、それぞれのシナリオに対して、
- すでにやっている対策(例:多要素認証の導入、バックアップ、注意喚起メールなど)
- まだ何もしていない、または弱いと感じる部分
を書き分けてみます。
たとえば、
- 顧客リスト:
✅ 社外への持ち出しルールは決めているが、
❌ 実際に守られているかのチェックはしていない - ネットバンキング:
✅ 毎日残高は確認しているが、
❌ 振込先の新規登録時のダブルチェックルールがない
といった形です。
ここまでできると、
「何となく不安」だった状態から、
「どこが弱くて、どこから手を付けるべきか」が見えてくる
ようになります。
Day3以降では、このリスクマップをもとに、
年末・長期休暇ならではの具体的な事故パターンや、現実的な対策を見ていきます。
4-5. まとめ・明日以降の予告
今日のポイント整理
- サイバーリスクとは、サイバー攻撃や人為的ミスをきっかけに、情報・業務・お金・信頼にダメージが出る「経営リスク」のこと。
- リスクを整理するときは、技術用語ではなく、「自社にとって何が止まると困るか・漏れると困るか」という視点が重要。
- 日本の調査でも、中小企業におけるサイバーインシデントは決してまれではなく、被害額・復旧日数・取引先への影響が無視できないレベルにある。
- まずは4つの領域ごとに「守りたいもの」を棚卸しし、簡単なリスクマップとして見える化するところから始めてみる。
明日のDay3では、
「年末・長期休暇の前後で、実際によくある事故パターン」
「攻撃者がどこを突いてくるのか」
「どんな事例から何を学べるのか」
といった内容を、できるだけ具体的なストーリー形式で整理していきます。
5. まとめ
- サイバーリスクは、「サイバー攻撃や人為的ミスをきっかけに、情報システムが侵害されることで発生する、事業へのさまざまな悪影響」のことを指し、情報漏えいだけでなく業務停止・金銭的損失・ブランドや法的リスクまで含む。
- 経営者向けには、リスクを「情報・業務・お金・信頼」の4つの領域に分けて整理すると、経営の言葉で話しやすくなる。
- 日本の調査では、中小企業におけるサイバーインシデント1件あたりの被害額は平均数十万円で、100万円以上のケースもあり、復旧に数日〜数十日かかる事例も報告されている。
- 約7割の中小企業で組織的なセキュリティ体制が整っておらず、被害が取引先に波及する「サイバードミノ」も問題になっている。
- まずは、4つの領域ごとに「守りたいもの」と「起きると困るシナリオ」を書き出し、現在の対策状況を整理した簡易リスクマップを作ることが、年末に向けた現実的な第一歩となる。
6. FAQ
Q1. 「サイバーリスク」と「情報セキュリティ」はどう違うのですか?
A. 「情報セキュリティ」は、主に情報やシステムを守るための取り組みのことを指します。一方、「サイバーリスク」は、攻撃やミスをきっかけに会社が被るかもしれない損失全体を意味します。前者は「守り方」、後者は「守れなかったときにどう困るか」というイメージです。
Q2. ITに詳しくない経営者でも、サイバーリスクを把握できますか?
A. はい、できます。技術的な詳細まですべて理解する必要はありません。この記事で紹介したように、「情報・業務・お金・信頼」の4つの観点から、「自社にとって何が大事か」「それが失われるとどう困るか」を言葉にできれば、十分にスタートラインに立てています。技術的な部分は、社内外の専門家と連携しながら補えば大丈夫です。
Q3. サイバー保険に入っていれば、リスクは気にしなくても大丈夫ですか?
A. サイバー保険は重要な備えの1つですが、すべての損失をカバーできるわけではありません。特に「業務停止による機会損失」や「顧客・取引先からの信頼低下」は、お金だけでは完全に取り戻せません。保険は「最悪のときのセーフティネット」として位置づけながら、日頃の対策とセットで考えることが大切です。
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