「今年だけ」で終わらせない。年末サイバー対策を“毎年の当たり前”にする5つのポイント

「今年だけ」で終わらせない。年末サイバー対策を“毎年の当たり前”にする5つのポイント
ここまで4日間、「年末のサイバーリスク」というテーマでご一緒してきました。最終回のDay5では、これまでの学びを振り返りつつ、「今年の気づきや対策を、来年以降につなげるにはどうしたらいいか」を整理していきます。
はじめに:サイバー対策は「イベント」ではなく「習慣」にしてこそ意味が出る
サイバーリスクに限らず、対策というのはどうしても、
- 大きなニュースがあったとき
- 取引先からアンケートが来たとき
- 社内でヒヤリとする出来事があったとき
など、「何かきっかけがあったときだけ一生懸命やる」という動きになりがちです。
しかし、攻撃者は年中活動していますし、システムや人の入れ替わりも日々起きています。
その意味では、サイバー対策は本来、
「一度がんばって終わり」ではなく、
「無理のない範囲で続ける習慣」に落とし込んだほうが、結果として楽になる
と言えます。
そこでDay5では、
- この4日間の内容を「3つのポイント」に整理し直す
- 年末サイバー対策を「毎年のルーティン」にするシンプルな仕組み
- 社内を巻き込みながら、外部リソースも上手に使う考え方
を一緒に見ていきます。
目次
5-1. この4日間の学びを「3つのポイント」に整理する
まずは、Day1〜4の内容を振り返りながら、「ここだけは覚えておきたい」というポイントを3つにまとめてみます。
ポイント1:年末は「人・システム・心理」が同時にゆるみやすい時期である
Day1・Day3で見たように、年末・長期休暇前後は、
- 人手が減る・担当者が不在になりやすい
- システムの更新を先送りにしがち
- 年末の挨拶やセールなど、メールを信じやすい雰囲気がある
という理由から、攻撃者にとって“狙いやすいタイミング”になりやすい、という話をしました。
まずはこの事実を、「なんとなく」ではなく、経営として認識しておくことがスタートラインです。
ポイント2:サイバーリスクは「情報・業務・お金・信頼」に影響する経営リスクである
Day2では、サイバーリスクを、
- 情報
- 業務継続
- お金(財務)
- 信頼・法務
という4つの領域に分けて考える、という整理をしました。
サイバーリスクは、「ネットのトラブル」や「パソコンの故障」といった狭い話ではなく、
会社の事業全体に影響しうる経営リスクだという捉え方がとても大切です。
この視点があると、
- 「このシステムが止まると、どの部門が困るか」
- 「この情報が漏れると、どのお客様・どの取引先に影響するか」
など、具体的な議論がしやすくなります。
ポイント3:「全部やる」のではなく、「優先順位をつけて続ける」ことが大事
Day4では、
人・ルール/メール・ID/端末・ネットワーク/クラウド・権限/体制・保険
という5つの視点でチェックリストを整理し、さらに「優先度A/B/C」に分けました。
ここでのメッセージはシンプルです。
完璧を目指すほど、動き出せなくなる。
まずは「ここだけは」という優先度Aから、少しずつ進めれば十分。
この3つのポイントが、Day1〜4の「骨組み」になります。
5-2. 年末サイバー対策を「毎年のルーティン」にする3ステップ
ここからは、毎年の年末に、無理なく続けられる形に落とし込んでいきます。
ステップ1:今年を「ざっくり振り返る」5つの質問
まずは、難しいことは考えず、次の5つの質問に答えてみてください。
- ① 今年、サイバー関連のヒヤリ・ハットは何回あったか?(怪しいメール・不審な動きなど)
- ② 今年、対策として新しく始めたことは何か?
- ③ その中で、「やってよかった」と感じたことは何か?
- ④ 逆に、「やろうと思って手をつけられなかったこと」は何か?
- ⑤ 来年、最初に改善したい1つを選ぶとしたら何か?
全部を完璧に答える必要はありません。
重要なのは、「今年の経験を、来年のヒントに変える」という感覚を持つことです。
ステップ2:「年末サイバー点検シート」を1枚作る
次に、Day4のチェックリストをベースに、御社オリジナルの「年末サイバー点検シート」を作ってみるのがおすすめです。
形式はシンプルで構いません。
- 項目:Day4のチェック項目から、自社に合うものを10〜15個ほど選ぶ
- 評価:各項目に対して「◎:できている/△:一部できている/×:できていない」などの欄をつくる
- メモ欄:「来年ここを強化したい」というコメントを書き込めるようにしておく
これを、
- 毎年12月の社内打ち合わせの議題にする
- 経営会議や役員会の資料として添付する
といった形で、「年末の風物詩」にしていくイメージです。
ステップ3:来年の「最初の一歩」を3つだけ決める
最後に、「来年ここから取り組む」という具体的な一歩を3つだけ決めます。
- 例1:1月中に、主要システムの多要素認証を全員に広げる
- 例2:年度内に、バックアップの取り方と復元テストを見直す
- 例3:次の長期休暇前に、注意喚起メールのテンプレートを整備する
ポイントは、
「やる/やらない」をあいまいにせず、
「いつまでに」「誰が」「何をするか」をざっくり決めておく
ことです。
5-3. 社内を巻き込むためのコミュニケーションのコツ
経営者や管理者の立場から見ると、
- 「こういうリスクがあるから、ちゃんとやってほしい」
- 「ルールを決めても、なかなか浸透しない」
という悩みも出てきやすいところです。
ここでは、現場を巻き込むうえで役立つ、3つのコミュニケーションのコツを紹介します。
コツ1:「難しい話」ではなく「自分の仕事にどう関係するか」を話す
たとえば、
- ×「サイバー攻撃が増えているので、注意してください」
- ◎「もしあなたのアカウントが乗っ取られたら、こういうお客様に迷惑がかかってしまう可能性があります」
というように、自分の業務・お客様との関係にひもづけて伝えるだけで、理解度が変わります。
コツ2:「守らないと怒られる」ではなく「一緒に会社を守る」というメッセージにする
サイバー対策は、ともすると「またルールが増えた」「面倒なことが増えた」と受け取られがちです。
そこで、
「サイバー対策は、経営者だけでは絶対に守りきれません。
みなさん一人ひとりの協力があって、会社やお客様を守れます。」
というメッセージを、社内のミーティングやメールで繰り返し伝えていくと、
「やらされる対策」から「一緒に守る取り組み」へと空気が変わっていきます。
コツ3:小さな成功体験を共有する
たとえば、
- ある従業員が、怪しいメールに気づいて報告してくれた
- バックアップからの復元テストがうまくいった
といった「うまくいった話」は、ぜひ社内に共有してあげてください。
これは、
「気をつけて行動すれば、ちゃんと会社の役に立てるんだ」
という感覚を広げることにつながります。
5-4. 自社だけで抱え込まないための外部リソース活用アイデア
最後に、「自社だけで全部やらない」という視点も大切です。
中小企業・個人事業主の現実として、
- 専任のセキュリティ担当を置くのが難しい
- 最新情報を追い続ける余裕がない
という状況は、ごく自然なことです。
アイデア1:公的機関の情報発信を「公式な参考書」として使う
たとえば、
- IPA(情報処理推進機構)の注意喚起やガイドライン
- 総務省・経産省などが出している中小企業向け資料
などは、信頼できる情報源としてそのまま社内共有に使えます。
すべてを読み込む必要はなく、気になるテーマだけ
「こんな注意が出ているので、うちでも気をつけましょう」と紹介するだけでも価値があります。
アイデア2:既存のIT・通信ベンダーに「サイバー面も相談していいか」聞いてみる
すでにお付き合いのある、
- システム会社
- 通信キャリア
- クラウド・ツールの販売店
などに対して、
「サイバー面の相談も含めて、どこまでお願いできるのか」
「いざというときに、どんなサポートメニューがあるのか」
を一度確認しておくと、「ここまでは自社で」「ここから先は外部で」と考えやすくなります。
アイデア3:相談できる窓口や専門家を「連絡先リスト」に入れておく
Day4で触れた「連絡フロー」の中に、
- 契約しているベンダーの緊急連絡先
- 必要に応じて相談できる専門家・サービス
などを登録しておくことで、「困ったときにどこに電話すればいいか分からない」状態を避けることができます。
5-5. まとめ&読者へのメッセージ
シリーズ全体の振り返り
- Day1:年末にサイバーリスクが高まる理由と、「自社も例外ではない」という認識づくり。
- Day2:サイバーリスクを「情報・業務・お金・信頼」の4つの領域で捉える、経営目線の整理。
- Day3:年末・長期休暇に実際に起きがちな事故パターンを、ストーリー形式でイメージする回。
- Day4:年末までに取り組みたい具体的なチェックリストと、優先順位の付け方。
- Day5:今年の学びを振り返り、来年以降も無理なく続けられる「しくみ」と「考え方」を整理。
最後に、1つだけお伝えしたいことがあります。
サイバー対策は、「完璧かゼロか」ではありません。
「何もしない」から「少しでも備える」へ進むだけで、リスクは確実に下がります。
このシリーズを読んでいただいたこと自体が、すでに大きな一歩です。
あとは、
- チェックリストの中から、できそうなものを1つ選んでみる
- 社内の打ち合わせで、このシリーズの内容を話題にしてみる
- 外部の専門家や窓口に、「うちは今こういう状況です」と相談してみる
といった小さな行動を、どこか1つだけでも起こしていただければ、それが「次の一歩」につながっていきます。
※ここまで読み進めてくださり、本当にありがとうございます。
6. まとめ
- 年末のサイバーリスク対策は、「今年だけの特別な取り組み」ではなく、毎年のルーティンとして続けることで、少ない負担で大きな安心を得られる。
- このシリーズの要点は、①年末は「人・システム・心理」がゆるみやすい時期であること、②サイバーリスクは「情報・業務・お金・信頼」に影響する経営リスクであること、③完璧を目指すより「優先順位をつけて続ける」ことが重要、という3点に要約できる。
- 実務的には、今年の振り返り(ヒヤリ・ハットや新しい対策など)→オリジナルの「年末サイバー点検シート」作成→来年の最初の一歩を3つ決める、という3ステップで「しくみ化」すると進めやすい。
- 社内を巻き込むには、「自分の仕事との関係」で伝えること、「一緒に会社を守る」というメッセージにすること、小さな成功体験を共有することが効果的である。
- すべてを自社だけで抱え込むのではなく、公的機関の情報・既存のITベンダー・保険や専門サービスなどの外部リソースも活用し、「何もしない」から「できるところから備える」へと一歩進むことが大切である。
7. FAQ
Q1. ここまで読んできましたが、正直まだ「ちゃんとできていない」感覚があります。
A. それでも大丈夫です。このシリーズの目的は「すべてをやり切ること」ではなく、まずは現状を知り、優先順位をつけられるようになることでした。この記事をきっかけに、「連絡フローを決める」「多要素認証だけでも有効にする」など、小さな一歩を決めていただければ、それで十分に前進しています。
Q2. 来年以降も同じような見直しを続けるには、どうやってモチベーションを保てばよいですか?
A. モチベーションよりも、「しくみ」や「ルール」にしてしまうほうが楽です。たとえば、「12月の最初の会議では、必ずサイバー点検シートを確認する」と決めておけば、自然と毎年見直す流れができます。また、小さな成功体験(怪しいメールに気づいた、復元テストがうまくいった等)を共有すると、「続ける価値がある」と感じやすくなります。
Q3. どの程度のレベルまで対策すべきか、判断基準が分かりません。
A. 業種・規模・扱う情報によって「必要なレベル」は違うため、一概には言えません。ただ、目安としては、①顧客・取引先との約束を守れるか、②事業が大きく止まらないか、③法令・契約上の最低ラインを満たしているかという3つを軸に考えると整理しやすくなります。不安な場合は、現在の状況を整理したうえで、外部の専門家に「このレベルで十分か」「どこを優先的に上げるべきか」を相談するのがおすすめです。
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