知らなかったでは済まされない!自社を守るハラスメント対策の最終チェックと次の一歩【Day5】

知らなかったでは済まされない!自社を守るハラスメント対策の最終チェックと次の一歩【Day5】

はじめに

ここまで4日間、ハラスメント対策について一緒に見てきました。

  • Day1:なぜ今「知らなかったでは済まされない」のか(リスクと全体像)
  • Day2:どこからアウトか?各種ハラスメントの基礎知識
  • Day3:実際の失敗事例から見えた、中小企業ならではの落とし穴
  • Day4:2026年を見据えた就業規則・体制づくりの実務ガイド

おそらく、ここまで読み進めたあなたは、

・「うちも手をつけないとマズいな」
・「何となく不安だったことが、言葉になってきた」
・「でも正直、どこまでやれば十分と言えるのか分からない」

といった感覚をお持ちかもしれません。

Day5は、このシリーズの「総仕上げ」です。

・これまでの内容を一度整理し直し、
・自社の現在地をチェックし、
・今後90日間で何をするかを、「経営者としてのコミットメント」に落とし込む

ことをゴールにします。

すべてを一人で完璧にやる必要はありません。
ただ、「何も決めないまま時間だけが過ぎていく」状態だけは、今日で終わりにしましょう。

1. シリーズを通して見えてきた3つの事実

まず、この5日間で一貫して浮かび上がってきた「事実」を、あらためて3つに整理します。

事実1:ハラスメント対策は「義務」であり、経営リスクでもある

パワハラ・セクハラ・妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント対策は、すでに事業主の義務として法律に位置づけられています。さらに、カスタマーハラスメントについても、防止措置の義務化が進んでいます。

「やった方が良い」ではなく、「やっていないと会社を守れない」テーマだという認識が必要です。

事実2:中小企業ほど、1件のトラブルのダメージが大きい

従業員数が少ない会社では、

  • 相談しにくい人間関係
  • 逃げ場のない配置
  • ルールや記録の不備

などが重なり、1件のハラスメントが退職・採用難・炎上などに直結しやすくなります。

逆に言えば、「小さい会社だからこそ、早く・柔軟に変えられる」という強みもあります。

事実3:完璧な制度より、「動いている仕組み」の方が価値がある

立派な就業規則やマニュアルがあっても、

  • 相談窓口が機能していない
  • 相談後の対応が遅い・あいまい
  • 現場がルールを知らない

といった状態では、ハラスメントは減りません。

中小企業にとって現実的なのは、「シンプルでも動く仕組み」をきちんと回すことです。

2. 自社の現在地を確認するセルフチェック10項目

ここでは、これまでの内容を踏まえた「現状チェックリスト」をご用意しました。
気楽な気持ちで「◯」「△」「✕」をつけてみてください。

  1. 当社には、「ハラスメントを許さない」という方針が、就業規則や社内文書で明文化されている。(◯/△/✕)
  2. パワハラ・セクハラ・妊娠・育児・介護・カスハラなど、代表的なハラスメントの例を、経営者自身が説明できる。(◯/△/✕)
  3. 従業員が「ここに相談すれば良い」と分かる相談窓口(社内・外部いずれか、または両方)がある。(◯/△/✕)
  4. 相談を受けたときの基本フロー(受付→事実確認→判断→フォロー)が、社内で共有されている。(◯/△/✕)
  5. 少なくとも過去1年以内に、ハラスメント防止に関する説明や周知を全従業員に行っている。(◯/△/✕)
  6. 管理職には、「叱り方」「評価面談」「妊娠・育児・介護の相談対応」などについて、何らかのフォローや情報提供をしている。(◯/△/✕)
  7. カスタマーハラスメントと正当なクレームの違い、線の引き方について、社内で方針が共有されている。(◯/△/✕)
  8. ハラスメントに関する相談や対応について、記録を残すルールがある。(◯/△/✕)
  9. 妊娠・出産・育児・介護などに関する相談が「言い出しにくい雰囲気」になっていないと言える。(◯/△/✕)
  10. 経営者として、「何か起きたときには会社として責任を持って対応する」という覚悟を、言葉と行動で示している。(◯/△/✕)

◯が多ければ、すでに一定の土台はできています。
△や✕が目立つ項目は、「90日以内に手をつける優先候補」としてメモしておきましょう。

3. 90日アクションプランの再整理(何から・どこまでやるか)

Day4では、「90日で整えるミニ・ロードマップ」をご紹介しました。ここでは、それをもう少しシンプルにまとめ直します。

【Step1:現状を見える化する(1〜2週間)

  • 就業規則・社内規程のハラスメント関連部分を抜き出す
  • 相談窓口やカスハラ対応のルールがあるか確認する
  • 直近1〜2年で、ハラスメントに関する相談やヒヤリ・ハットがなかったか振り返る

【Step2:方針とルールのたたき台を作る(3〜4週間)

  • 会社としての基本方針(一文)を決める
  • 対象となるハラスメントの種類と代表的な例を、社内向けに整理する
  • 相談窓口(社内+外部)の構成を決める
  • 調査フロー(受付→事実確認→判断→フォロー)の骨子を作る

【Step3:専門家と確認し、就業規則・規程に反映する(3〜4週間)

  • 社労士など専門家に、自社の案を見てもらう
  • 必要に応じて就業規則を改定する
  • カスハラ・求職者へのハラスメントなど、2026年に向けたポイントも盛り込む

【Step4:周知・研修と運用スタート(3〜4週間)

  • 全従業員向けの説明会(30〜60分)を実施
  • 管理職向けにケーススタディ中心のミニ研修を行う
  • 相談窓口の案内を社内掲示・チャット等で周知
  • 相談・対応の記録フォーマットを決め、運用を開始する

ここまでできていれば、「何もしていない会社」からは大きく一歩抜け出した状態になっています。

もちろん、その後も継続的な見直しは必要ですが、まずはこの90日を一区切りとして位置づけるのがおすすめです。

4. 社長・役員が今日決めるべき5つのコミットメント

最後は、経営トップとして「何を約束するか」です。

以下の5つは、そのまま声に出していただいてもいいですし、自社用に書き換えても構いません。

  1. 「当社は、あらゆるハラスメントを許さない」という方針を、文書と言葉で示します。
  2. 従業員が安心して相談できる窓口と流れを、90日以内に整えます。
  3. 相談があったときには、放置せず、必ず事実確認と対応を行います。
  4. お客様・取引先が相手であっても、従業員の心身を守るために線を引く勇気を持ちます。
  5. 一人で抱え込まず、必要な場面では専門家と連携して会社と人を守ります。

この5つを決めるだけでも、会社の空気は少しずつ変わっていきます。

大事なのは、「宣言して終わり」ではなく、小さくても行動に移すことです。

5. 社内へのメッセージ例(そのまま使えるテンプレ)

ここでは、社内向けに配信できるメッセージの例を2パターンご紹介します。メール・社内チャット・朝礼スピーチなどで、そのまま(あるいは一部修正して)お使いください。

例1:全従業員向けメッセージ(メール・チャット用)

皆さんへ

いつもお仕事お疲れさまです。代表の〇〇です。

当社は今後、「職場におけるあらゆるハラスメントを許さない」という方針を、これまで以上に明確にしていきます。

パワハラ、セクハラ、妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント、そしてお客様からのカスタマーハラスメントなど、
働く人の心や身体を傷つける行為は、当社の職場には必要ありません。

「これはどうなんだろう」「少し困っている」と感じることがあれば、
一人で抱え込まず、遠慮なく相談してください。

今後、就業規則の見直しや相談窓口の整備、研修などを進めていきます。
詳細はあらためてお知らせしますが、まずは「会社として本気で取り組む」ということをお伝えしたく、このメッセージをお送りしました。

これからも、安心して働ける職場を、一緒に作っていければと思います。
よろしくお願いします。
      

例2:管理職向けメッセージ(ミーティング用)

管理職の皆さんへ

日々のマネジメントと現場対応、本当にありがとうございます。

ハラスメント対策について、会社としての方針を強化していくにあたり、
皆さんの協力が不可欠です。

「厳しい指導」と「パワハラ」の線引き、
「フランクなコミュニケーション」と「セクハラ」の境目、
「お客様第一」と「従業員を守ること」のバランス──

これらは、現場で判断するのが難しい場面も多いと思います。

だからこそ、困ったときには一人で抱え込まず、
私や〇〇(相談窓口)にも遠慮なく相談してください。

管理職が安心して相談できる会社でなければ、
現場のメンバーも安心して働くことはできません。

今後、ケーススタディを交えたミニ研修も予定しています。
一緒に、より良い職場を作っていきましょう。
      

6. 専門家に相談すべきタイミングと、相談前に整理しておくこと

最後に、「どんなときに外部の専門家に相談すべきか」を整理しておきます。

6-1. 専門家に相談した方が良い主なケース

  • ハラスメントが原因と思われる休職・退職が発生した、あるいはその懸念が強いとき
  • すでに労働局・労基署・弁護士など第三者が関わり始めているとき
  • 就業規則や懲戒の運用について、法的な観点からの確認が必要なとき
  • カスタマーハラスメントが深刻化し、対応に限界を感じているとき
  • 経営者自身が、「何から手をつければよいか分からず不安が大きい」と感じるとき

「問題が起きてから」だけでなく、「起きる前の予防」「制度づくり」の段階で相談することも、とても価値があります。

6-2. 相談前に整理しておくと良いこと

専門家に相談する前に、次のような情報を簡単にまとめておくと、話がスムーズに進みます。

  • 会社の概要(業種・従業員数・事業所数など)
  • 就業規則やハラスメント関連規程の有無(あれば最新のもの)
  • これまでに起きたトラブルやヒヤリ・ハットの概要
  • 経営者として特に不安に感じている点(例:管理職の叱り方、カスハラ、妊娠・育児関連など)
  • 相談したうえで、「どうなっていたら良いか」というゴールのイメージ

完璧な資料である必要はありません。
むしろ、「モヤモヤしている状態」をそのまま話して整理してもらうという使い方でも大丈夫です。

7. まとめ+要約

▼この記事(Day5)の要点

  • ハラスメント対策は、法的義務であると同時に、中小企業の経営リスクを減らすための「守りの投資」でもある。
  • セルフチェック10項目を通じて、自社の現在地と「90日以内に手をつけるべきポイント」を可視化できる。
  • 90日アクションプランは、「現状把握 → 方針・ルール案づくり → 専門家との確認 → 周知・運用」という4ステップで考えると進めやすい。
  • 経営トップの5つのコミットメント(方針表明・窓口整備・相談放置をしない・カスハラへの線引き・専門家との連携)が、会社の姿勢を形作る。
  • 社内へのメッセージ例を活用することで、「会社の本気度」を分かりやすく伝えられる。
  • 専門家への相談は、「問題が起きた後」だけでなく、「予防」と「制度づくり」の段階で活用するのが効果的である。

5日間のシリーズを通じて、ハラスメント対策は、決して「誰かを責めるための仕組み」ではなく、

「会社と人を一緒に守るための仕組み」

であることをお伝えしてきました。

ここまで読み進めた今が、最も一歩踏み出しやすいタイミングです。
どうか、このタイミングを逃さず、「まず一つ、今日決めること」から始めてみてください。

8. FAQ(よくある質問)

Q1. 5日分を読んでみて重要性は分かりましたが、正直、日々の業務で手一杯です。本当に今やらないといけませんか?

A. 忙しいからこそ、「今やる意味」があります。ハラスメントは、起きてから対応する方が、時間もお金も労力もはるかに大きくかかります。最低限の方針・窓口・フローを整えておくだけでも、「いざ」というときのダメージを大幅に減らすことができます。すべてを一気にやる必要はありませんので、まずは90日でできる範囲から一緒に整理していきましょう。

Q2. 従業員から、「会社がハラスメント対策を強化するのは、疑われているみたいで嫌だ」と言われないでしょうか?

A. 伝え方次第で、受け止め方は大きく変わります。「疑っているからやる」のではなく、「誰かが困ったときに守れる会社でいたいから整える」というメッセージを、はっきり言葉にして伝えることが大切です。Day5でご紹介した社内メッセージ例も、ぜひ参考にしてみてください。

Q3. どこまで自社で進めて、どこから専門家に頼むべきかの線引きが分かりません。

A. 目安としては、「就業規則や懲戒など法的な判断を伴うところ」や、「争いが深刻化しそうなケース」は専門家と一緒に進めるのがおすすめです。一方で、「基本方針づくり」「自社の価値観を言語化する部分」「日常のコミュニケーションの見直し」などは、経営者の皆さんだからこそできる領域です。迷ったときは、一度相談してみて、「どこから一緒にやるか」を話し合うところから始めてみてください。

9. ご相談のご案内

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