フリーランスの労災リスクが深刻化|中小企業と個人が今すぐ見直すべき安全対策とは

フリーランスの労災リスクが深刻化する理由と、企業・個人の課題整理
フリーランス人口の増加と制度改正により、業務委託でも「労災リスク」が無視できない時代になりました。本記事では、中小企業経営者・役員・フリーランスが押さえておきたい現状と、事故が起きる前に考えておくべきポイントをわかりやすく解説します。
はじめに
「業務委託だから、うちの責任じゃないですよね?」
「フリーランスだから、ケガしても自己責任かな……」
こうした会話は、現場でよく耳にするものです。
しかし、フリーランス人口が増え、労災保険の特別加入やフリーランス新法、労働安全衛生法の改正など、制度も急速に変わりつつあります。
現状(Before)
- 業務委託だから「労働者ではない」と考え、企業もフリーランスも安全配慮を後回しにしがち
- 事故が起きるまで「保険」「契約内容」「安全対策」の議論が進まない
- ケガや病気が起こったとき、誰がどこまで負担するのかが曖昧なまま
目指したい状態(After)
- 企業側:法改正の流れを理解し、業務委託でも必要な安全配慮や契約・保険を把握している
- フリーランス側:自分の身を守るための情報を持ち、「なんとなく不安」を具体的な行動に変えられている
- 双方で「安全に働ける関係」をつくり、長期的な信頼と取引継続につなげていく
このシリーズの位置づけ(Bridge)
この5日間のシリーズでは、
- なぜ今、フリーランスの労災リスクが問題になっているのか
- 制度や法律はどう変わりつつあるのか
- 企業とフリーランス、それぞれが現実的にできる備えは何か
を、できるだけ専門用語を避けながら整理していきます。
Day1ではまず、「現状を正しく知ること」に集中します。
「そもそも、何が問題になっているのか?」を一緒に押さえていきましょう。
目次
- フリーランスの労災リスクが「深刻化」と言われる3つの背景
- 「業務委託だから自己責任」という企業側の思い込み
- フリーランス側にありがちな3つの油断
- 事故が起きたとき、企業とフリーランスに実際に起こること
- この5日間シリーズで得られること
本文
1. フリーランスの労災リスクが「深刻化」と言われる3つの背景
① フリーランス人口の増加と「働き方の狭間」
政府の調査では、日本には約462万人のフリーランスがおり、そのうち約273万人が企業などから業務委託で仕事をしています。
人数が増えるほど、当然ながら現場での事故・病気の絶対数も増えやすくなります。
ところが、フリーランスは雇用契約のある「労働者」とはみなされず、従来の労働法制や労災保険の保護の“外側”に置かれてきました。
- 会社員:会社が労災保険に加入しているのが前提
- フリーランス:自分で保険に入っていなければ、基本的に公的な労災補償は受けられない
この「安全網のすき間」が、現場で問題として表面化してきています。
② 制度が動き始めた=国もリスクを重く見ているサイン
2024年11月から、企業から業務委託を受けて働くすべてのフリーランスが、労災保険の特別加入の対象になりました。
- 以前:一部の業種(建設、自転車配達員、ITなど)だけが特別加入の対象
- 現在:業種を問わず、一定の要件を満たすフリーランスであれば特別加入が可能
さらに、2026年からは段階的に、「労働安全衛生法・作業環境測定法」の改正により、フリーランスや個人事業主にも安全配慮に関するルールが広がっていきます。
制度が変わり始めたということは、
「フリーランスの労災リスクは、もう放置できないレベルにある」
と国が判断したとも言えます。
③ 偽装フリーランス問題と、企業側リスクの可視化
国会では、実態は従業員なのに「業務委託」「個人事業主」という形だけを使って、社会保険や労災保険の負担を逃れる「偽装フリーランス」への対策も議論されています。
今後、
- 形式上は業務委託でも、
- 実態が「社員と同じような働き方」であれば、
企業側に安全配慮義務や補償の責任が問われる場面は、確実に増えていくと考えられます。
2. 「業務委託だから自己責任」という企業側の思い込み
中小企業の現場でとても多いのが、
「業務委託だから、ケガをしても労災は関係ない」
という前提です。
しかし、実際には次のようなグレーゾーンが存在します。
- 実質、社員と同じように指示・管理している
- フリーランスが常駐して、会社の設備や機械を使って作業している
- 作業内容や手順、安全管理を会社側が細かく決めている
このような場合、たとえ契約書には「業務委託」と書いてあっても、裁判などで「実質的には労働者」と判断される可能性があります。
また、法的な話以前に、
- 事故がニュースやSNSで拡散されるリスク
- 受注先・取引先からの信頼低下
- 採用にも響く「安全に配慮していない会社」というイメージ
といった reputational(評判)のダメージも無視できません。
「契約の形だけ整えればOK」ではなく、
現場の実態とセットで考える必要がある、というのが今の流れです。
3. フリーランス側にありがちな3つの油断
一方で、フリーランス側にも、次のような「油断」や「思い込み」がよく見られます。
油断1:健康保険があるから、ある程度はなんとかなる
たしかに、国民健康保険などに入っていれば、医療費の自己負担は3割で済みます。
ただし、健康保険は「治療費の一部」をカバーするだけで、
- 休業中の収入
- 障害が残った場合の長期的な補償
- 遺族への補償
までは十分にカバーできません。
一方、労災保険は
- 治療費の自己負担がゼロ
- 休業中は基礎日額の80%相当が支給される(給付+特別支給金)
など、収入や生活への影響も含めた補償を想定している制度です。
「治療費だけでなく、生活費もどうするか」を考える必要があります。
油断2:大きな事故なんて、そうそう起きないはず
実際のところ、重大事故だけが問題ではありません。
- 転倒して骨折 → 数か月の休業
- 腰痛・ムチウチ → 治療とリハビリで仕事をセーブせざるを得ない
- うつ・メンタル不調 → 長期の離脱や案件キャンセル
こうした「じわじわ効いてくる不調」も、フリーランスにとっては売上と信用に直結する重大なリスクです。
油断3:契約書は「金額と納期」だけ見ている
安全配慮や事故時の取り扱いに関する条文を見ずに、
- 「単価は悪くないからOK」
- 「今はとにかく仕事が欲しいからサインする」
と契約してしまうケースもよくあります。
本来チェックしておきたいのは、
- 事故が起きた場合の責任分担(どこまでが発注者負担か)
- 保険加入状況(企業側・フリーランス側の双方)
- 安全衛生教育や防護具の提供についての取り決め
などです。
「契約書=請求書の前提書類」ではなく、
「万が一のときに自分を守る盾」と考える視点が重要になります。
事故が起きたとき、企業とフリーランスに実際に起こること
ここでは、あえて少しシビアな話をします。
もし現場で事故が起きた場合、具体的にどうなるかを、企業側・フリーランス側の両方から見てみましょう。
フリーランス側に起こること
- 仕事ができない期間中の売上ゼロ
- 継続案件・レギュラー案件の解除
- 医療費・交通費などの自己負担
- 発注者との関係悪化(納期遅延・代替手配など)
保険や契約で守られていなければ、「ケガ+収入減+信用不安」の三重苦になる可能性があります。
企業側に起こること
- プロジェクトの遅延・追加コスト
- 代替リソースの確保(人件費・教育コスト)
- 安全配慮が十分でなかった場合、法的リスクや行政からの指導
- SNS・口コミなどによるレピュテーションリスク
さらに、今後は労働安全衛生法の改正により、フリーランスや個人事業主に対しても、一定の安全配慮を行うことが求められる方向です。
つまり、「業務委託だから、うちには関係ない」というスタンスは、
これから数年のうちに、通用しなくなっていく可能性が高いと言えます。
この5日間シリーズで得られること
このシリーズでは、次のようなステップで話を進めていきます。
- Day1: 現状の整理(今、何が問題なのか?)
- Day2: 法制度・保険の基礎をわかりやすく整理
- Day3: 実際の事故ケースから「本当に困るポイント」を理解
- Day4: 企業側の備え(契約・体制・保険)の具体策
- Day5: フリーランス側の備え(保険・契約・セルフケア)のチェックリスト
読み終わるころには、
- 「うちの会社は、まずここから見直そう」
- 「自分の働き方では、この保険とこの契約条項は最低限必要だ」
といった具体的な一歩がイメージできる状態を目指しています。
まとめ
一文サマリ:
フリーランスの労災リスクは、人口の増加と制度改正の流れの中で、企業・フリーランス双方にとって「もう他人事ではないテーマ」になっています。
要点のおさらい:
- フリーランスは約462万人、その多くが業務委託で働きながら、従来は労災保険の対象外になりがちだった
- 2024年11月から労災保険の特別加入が全業種フリーランスに広がり、制度面でもリスクが可視化されている
- 「業務委託だから自己責任」という思い込みは、企業側・フリーランス側どちらにとっても危険
- 事故が起こると、ケガだけでなく「収入・信用・プロジェクト」へのダメージが一気に表面化する
- 今後数年で、安全配慮義務やメンタルヘルスへの配慮が、フリーランスにも広がる流れにある
FAQ(3問)
Q1. フリーランスでも「労災」は関係あるのでしょうか?
A. あります。
従来の労災保険は主に「雇われている労働者」が対象でしたが、現在は業務委託で働くフリーランスも、特別加入という形で労災保険に入れるようになっています。
Q2. 健康保険に入っていれば、わざわざ労災保険に入らなくてもいいですか?
A. 健康保険は「治療費の一部」を助けてくれる制度で、休業中の収入補償や、障害・遺族への補償まで十分にカバーできるわけではありません。
労災保険は、仕事や通勤が原因のケガ・病気に対して、治療費だけでなく休業補償や障害・遺族補償も想定した仕組みになっています。
Q3. 企業として、まず何から見直すべきでしょうか?
A. 第一歩としては、
- 現在関わっているフリーランス・業務委託先の一覧を出す
- 安全配慮や事故時の取り扱いが契約書にどう書かれているかを確認する
- 現場での安全教育や情報共有が、社員とフリーランスで差がついていないかを見る
この3つを“現状把握チェック”として行うのがおすすめです。
具体的な契約条文や体制づくりについては、Day4で詳しく扱います。
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