フリーランス新法と労災保険特別加入をやさしく解説|企業とフリーランスが押さえたい基礎知識

フリーランス新法と労災保険特別加入をやさしく解説|企業とフリーランスが押さえたい基礎知識
フリーランス新法と労災保険特別加入をやさしく解説|企業とフリーランスが押さえたい基礎知識
はじめに
前回(Day1)では、「フリーランスの労災リスクがなぜ深刻化しているのか」という背景をみてきました。
今回は一歩進めて、
- フリーランスに関する新しい法律(いわゆる「フリーランス新法」)
- フリーランスも使えるようになった「労災保険の特別加入」
という、制度面の“土台”を整理していきます。
現状(Before)
- 「フリーランス新法って聞いたことはあるけれど、何をすればいいか分からない」
- 「労災保険の特別加入って、名前だけ聞いたことがある程度」
- 「担当者任せで、経営者やフリーランス本人はよく理解できていない」
目指したい状態(After)
- フリーランス新法のおおまかな目的と、自社が関係するかどうかがイメージできる
- 労災保険と健康保険の違いをざっくり理解している
- 「特別加入」とは何か、企業側とフリーランス側で何を確認すべきかが把握できている
この記事の役割(Bridge)
制度の話はどうしても難しくなりがちです。そこで本記事では、細かい条文の話ではなく、
- 中小企業経営者・役員が意思決定に使えるレベルのざっくり理解
- フリーランス・個人事業主が「自分の身を守る」ために必要な最低限の知識
に絞って解説していきます。
目次(トピッククラスタ)
- フリーランス新法って何?正式名称と目的をやさしく整理
- 企業側に求められる「取引ルール」と「就業環境の整備」
- 労災保険の基本:健康保険との違いをざっくり理解する
- フリーランスが利用できる「特別加入」とは?
- 企業・フリーランスそれぞれの「いま確認しておきたいチェックポイント」
本文
1. フリーランス新法って何?正式名称と目的をやさしく整理
① 正式名称は「フリーランス・事業者間取引適正化等法」
ニュースなどでは「フリーランス新法」「フリーランス保護新法」と呼ばれていますが、正式名称は、
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」
(通称:フリーランス・事業者間取引適正化等法)です。
大きく分けると、次の2つを目的としています。
- フリーランスと発注事業者のあいだの「取引条件」を適正にすること
- フリーランスの「就業環境」をきちんと整えること
つまり、「お金の面」と「働く環境の面」の両方を守るための法律と考えると分かりやすいです。
② どんな人・会社が対象になるのか(ざっくりイメージ)
この法律がイメージしている「フリーランス」とは、ざっくり言うと、
- 個人として仕事を受けている(会社ではなく個人事業主)
- 自分の従業員を雇っていない
- 企業などから業務委託で仕事を受けている
という人たちです。
一方、発注する側は、
- 従業員を雇っている企業や個人事業主
- そうした事業者が、個人のフリーランスに仕事を委託しているケース
が、法律の対象になってきます。
細かい定義はありますが、「従業員を雇っている企業」から「一人でやっているフリーランス」への業務委託と思っておくとイメージしやすいでしょう。
③ フリーランス新法と労災の関係
フリーランス新法そのものは、「労災保険の仕組み」を直接変える法律ではありません。
ただし、
- 就業環境の整備(安全配慮やハラスメント防止など)
- 取引条件の書面明示(どんな仕事を、どこで、どのように行うのか)
を求めることで、「事故が起きにくい環境をつくる」「事故が起きたときの責任関係を見える化する」という点で、労災リスクとの関わりが大きくなってきます。
2. 企業側に求められる「取引ルール」と「就業環境の整備」
フリーランス新法で、発注する企業側に求められるポイントを、できるだけシンプルに整理してみます。
① 取引条件を「書面やメール」で明示する義務
まず大きなポイントが、「仕事を頼むときの条件を書面やメールなどで具体的に伝えましょう」というルールです。
たとえば、
- どんな内容の仕事か(業務内容)
- 報酬はいくらか
- 支払期日はいつか
- どこで、いつまでに仕事をするのか
といった条件を、口頭ではなく、書面やメールなどの「証拠が残る形」で示す必要があります。
これは、
- 「言った・言わない」のトラブルを防ぐ
- 事故が起きたときに、「どこまでが業務か」を確認しやすくする
という意味でも、労災リスクの管理につながります。
② 報酬の支払い期日・下請けいじめ的行為の禁止
フリーランス新法では、
- 報酬の支払い期日を決めること
- 決めた期日までに支払うこと
- 正当な理由なく一方的に報酬を減らしたり、発注内容を変えたりしないこと
などが求められます。
これらは一見、労災とは関係ないように見えますが、
- 無理な値下げや短納期が続く
- 常に時間に追われる働き方になる
という状況は、結果的に安全配慮や健康管理をおろそかにしやすい環境を生みがちです。
③ 「就業環境の整備」としての安全配慮・ハラスメント防止
フリーランス新法では、就業環境の整備として、
- 妊娠・出産・育児・介護などとの両立への配慮
- パワハラ・セクハラなどの防止措置
なども、発注側に求めています。
これは、メンタル面を含めて「安全に働ける環境」を整えることでもあり、
今後予定されている労働安全衛生法の改正ともセットで、フリーランスも含めて“安全と健康”を守る流れが強まっていると言えます。
3. 労災保険の基本:健康保険との違いをざっくり理解する
次に、「そもそも労災保険って何?」というところを簡単に整理します。
① 労災保険は「仕事や通勤が原因のケガ・病気」を守るための制度
労災保険(労働者災害補償保険)は、
- 仕事中
- 通勤中
に起きたケガや病気、障害、死亡などに対して、
- 治療費
- 休業中の収入補償
- 障害が残った場合の補償
- 遺族への補償
などを行うための制度です。
会社員であれば、一般的には会社が加入してくれているので、本人が意識していなくても守られています。
② 健康保険との大きな違い
一方、国民健康保険や社会保険などの「健康保険」は、
- 病気やケガの治療費の一部を負担してくれる制度
です。
健康保険では、
- 窓口負担は原則3割
- 休業中の収入がすべてカバーされるわけではない(傷病手当金にも条件がある)
といった特徴があります。
それに対して労災保険は、
- 仕事や通勤に原因があると認められれば、治療費は原則自己負担なし
- 休業中の一定割合の収入を補償する仕組みがある
- 障害・遺族への補償など、長期的な生活も視野に入れた制度になっている
といった違いがあります。
ポイントは、「医療費だけでなく、収入や家族の生活も含めて支える制度」かどうかです。
4. フリーランスが利用できる「特別加入」とは?
本来、労災保険は「雇われて働く人(労働者)」のための制度です。
では、フリーランスや個人事業主は使えないのかというと、そうではありません。
① 「特別加入」という仕組みでフリーランスもカバー
フリーランスや一人親方などの事業者向けに、
「労災保険の特別加入制度」
という仕組みがあります。
これは、
- 本来は労働者ではない事業者が、
- 自分で保険料を支払うことで、
- 労災保険と同じような補償を受けられるようにする
という制度です。
② 対象拡大により「すべてのフリーランス」が特別加入の対象に
これまでは、
- 建設業の一人親方
- タクシー・トラック運転手
- ITフリーランス、自転車配達員など一部の業種
など、職種ごとに限定的な対象でした。
しかし、制度改正により、
- 業務委託で働くフリーランス(特定受託事業者)
- 職種を問わず、広く「個人で業務委託を受ける人」が対象
へと、特別加入の対象が大きく広がりました。
これにより、デザイナー・ライター・エンジニア・コンサルタント・講師など、
いわゆる「ホワイトカラー系」のフリーランスにも、労災保険の選択肢が現実的になってきています。
③ 加入のイメージ:団体を通じて申し込む
多くの場合、
- 各業界の団体や、フリーランス向けの労災保険センター
といった「特別加入団体」を通じて申し込む形になります。
ざっくりした流れは、
- 自分の業種に合う特別加入団体を探す
- 団体に申し込み・必要書類の提出
- 保険料を支払う(年払い・月払いなどは団体による)
- 承認されれば、その期間中は労災保険の対象になる
というイメージです。
注意点:
保険料の水準や補償内容の詳細、加入条件などは、団体ごとに案内が異なります。
実際に加入を検討する際は、最新の公式情報や専門家(社会保険労務士など)に確認することをおすすめします。
企業・フリーランスそれぞれの「いま確認しておきたいチェックポイント」
最後に、Day2のまとめとして、企業側・フリーランス側がそれぞれ今チェックしておきたいポイントを整理します。
企業(中小企業経営者・役員)のチェックポイント
- フリーランスに仕事を依頼するとき、口頭ベースになっていないか
- 業務内容・報酬・支払期日・作業場所・納期などを、書面やメールで明示しているか
- フリーランスの就業環境(安全・ハラスメントなど)について、社員と同等レベルの配慮があるか
- 業務委託先のフリーランスが労災保険に特別加入しているか、確認する仕組みを作れないか
- 万が一の事故が起きたとき、自社としてどこまで対応するか方針が決まっているか
フリーランス・個人事業主のチェックポイント
- 自分が受けている業務委託は、フリーランス新法の対象になりそうか(一人で受託しているか、相手は従業員を雇う事業者か…など)
- 契約条件(業務内容・報酬・支払期日など)が、きちんと書面やメールでもらえているか
- 今入っている保険で、仕事中・通勤中のケガや病気がどこまでカバーされているか把握できているか
- 労災保険の特別加入について、自分の業種で利用できる団体や保険料の目安を調べたことがあるか
- 不安や疑問があるときに、相談できる社労士・弁護士・窓口などを把握しているか
完璧に対応する必要はありませんが、
まずは「知らなかった」「何もしていなかった」という状態を抜け出すことが大切です。
Day3では、実際に事故やトラブルが起きたケースをもとに、
企業とフリーランスの双方にどんな影響が出るのかを、もう少しリアルに見ていきます。
まとめ
一文サマリ:
フリーランス新法と労災保険の特別加入は、「フリーランスの取引ルール」と「安全・健康を守る仕組み」を整えるための、企業とフリーランス双方に関わる重要な制度です。
要点のおさらい:
- フリーランス新法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)は、取引の適正化と就業環境の整備を目的とした法律で、フリーランスと発注事業者双方に関わるルールを定めている。
- 発注側の企業には、取引条件を文書やメールで明示する義務や、報酬の支払期日を守る義務などが課されている。
- 労災保険は「仕事・通勤を原因とするケガや病気・障害・死亡」をカバーし、治療費だけでなく休業補償や遺族補償まで含む点で、健康保険とは役割が異なる。
- フリーランスは「特別加入制度」を利用することで、自分で保険料を払えば労災保険による補償を受けられる。
- 制度をすべて理解する必要はないが、「自分に関係するポイント」と「誰に相談すればよいか」を押さえておくことが、リスク管理の第一歩になる。
※本記事は、法制度の概要を分かりやすく紹介するものであり、個別のケースについての法的・税務的アドバイスではありません。具体的な判断が必要な場合は、社会保険労務士・弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。
FAQ(3問)
Q1. フリーランス新法は、すべてのフリーランスに自動的に適用されるのですか?
A. いいえ、「すべてのフリーランス」に無条件で適用されるわけではありません。
一般的には、
- 従業員を雇っていない個人の事業者(フリーランス)であること
- 従業員を使用する事業者から業務委託を受けていること
といった条件に当てはまる取引が対象になります。
自分のケースが当てはまるか不安な場合は、専門家や公的な相談窓口に確認してみると安心です。
Q2. フリーランスが労災保険の特別加入をした場合、企業側が保険料を負担する必要はありますか?
A. 基本的には、特別加入の保険料はフリーランス本人が負担します。
ただし、実務上は、
- 報酬単価の設定である程度織り込む
- 安全配慮の一環として、一部を企業側が補助する
といった形をとるケースも考えられます。
いずれにしても、「誰がどこまで負担するのか」を事前に話し合い、契約書などに明記しておくことがトラブル防止につながります。
Q3. すでに民間の保険(所得補償・傷害保険など)に入っています。それでも労災保険の特別加入は必要ですか?
A. 民間保険に加入している場合でも、労災保険の特別加入を検討する価値はあります。
理由としては、
- 労災保険は、公的制度として比較的手厚い補償が用意されている
- 民間保険と併用することで、「医療費」「収入」「長期的な障害・遺族補償」を組み合わせてカバーしやすくなる
などが挙げられます。
ただし、保険は「入りすぎてもムダ」になり得ます。
すでに加入している保険の内容と、特別加入で増える補償の中身・保険料を比較しながら、
保険代理店やファイナンシャルプランナーなどと一緒に検討するのがおすすめです。
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