フリーランス労災リスクのリアルな事例集|企業とフリーランス双方が後悔したポイント

フリーランス労災リスクのリアルな事例集|企業とフリーランス双方が後悔したポイント

フリーランス労災リスクのリアルな事例集|企業とフリーランス双方が後悔したポイント

フリーランスとの取引で実際に起きがちな事故・トラブルを、企業側・フリーランス側の両方の視点からケーススタディ形式で解説。どこでつまずき、何をしておけば良かったのかを具体的に整理します。

はじめに

Day1では「なぜフリーランスの労災リスクが深刻化しているのか」、Day2では「フリーランス新法と労災保険の特別加入」という制度面を整理してきました。

ただ、多くの方が本音ではこう思っているかもしれません。

  • 「うちの規模で、そこまで大きな事故は起きないだろう」
  • 「ニュースに出るのは、もっと特殊なケースでは?」

ところが、実際にトラブルになっているのは、ニュースにならないような、ごく普通の企業とフリーランスの現場です。

  • なんとなく不安はあるが、「実際にどんなことが起きているのか」はイメージしにくい
  • 契約書や保険の話はしているつもりでも、「いざというとき本当に役に立つのか」はよく分からない
  • 事故・トラブルの話は社内で共有されず、対策が属人的になりがち
  • 現実に起こりうるパターンを知り、「自社・自分に置き換える」ことができる
  • どこで判断を誤りやすいのか、どこまで事前に決めておくべきかが具体的に分かる
  • 「これは他人事ではない」と感じつつも、必要以上に怖がらずに一歩ずつ対策が取れる
本記事(Day3)では、架空のケースをもとにした事例を3つ取り上げます。
いずれも、実際に起きがちなパターンをモデルにしていますが、特定の企業・個人を指すものではありません。

企業側・フリーランス側の「それぞれの後悔」を丁寧に見ていきながら、
「自分たちならどこを直せそうか?」を一緒に考えていきましょう。

目次

  1. ケース1:建設現場の一人親方が墜落事故にあったとき
  2. ケース2:IT常駐フリーランスのメンタル不調と長期離脱
  3. ケース3:在宅クリエイターの体調悪化と納期トラブル
  4. 3つのケースから見える「共通の落とし穴」
  5. 明日からできる「小さな一歩」の具体例

本文

1. ケース1:建設現場の一人親方が墜落事故にあったとき

※このケースは、実際の裁判例や報道を参考にしつつ再構成した架空の事例です。

① 事故が起きるまでの流れ

地方の建設会社A社は、慢性的な人手不足から、
屋根工事や足場工事について「一人親方」と呼ばれる個人事業主の職人さんに仕事を出すことが増えていました。

A社の社長はこう考えていました。

  • 「一人親方は事業主だから、労災は自分でどうにかするはず」
  • 「うちは工事をお願いしているだけで、従業員ではない」

そのため、

  • 契約書は簡単な見積書兼請求書のみ
  • 安全帯の使用などは口頭で「気をつけてくださいね」と声をかける程度
  • フリーランス側の保険加入状況も、特に確認していなかった

そんな中、ある現場で、一人親方の職人Bさんが屋根の上から足を滑らせ、2階の高さから転落。
大腿骨骨折で、少なくとも半年は現場復帰が難しい大ケガとなってしまいました。

② 事故後に起きたこと

事故後、Bさんはこう感じていました。

  • 「現場の段取りや作業内容は、ほとんどA社の監督が決めていた」
  • 「安全帯を付けられるフックも十分になかった」
  • 「自分はケガをしたうえに、収入もゼロになるのか」

一方A社は、

  • 「一人親方だから、うちの労災の対象ではないはず」
  • 「でも、現場の安全管理に問題がなかったとは言い切れない…」

という板挟みの状態に。

最終的には、

  • A社の加入していた請負業者賠償責任保険の適用範囲
  • 現場の安全配慮義務をどこまで果たしていたか
  • Bさん側の保険(特別加入・民間保険)の有無

などをめぐって話し合い(ときには弁護士を通じた交渉)が続き、
現場はストップ、社内の雰囲気も重くなってしまいました。

③ 企業側の「こうしておけばよかった」

  • 一人親方を含む現場従事者について、安全教育・装備・足場などの安全配慮を、従業員と同じレベルで行うべきだった
  • 業務委託契約書の中で、労災保険(特別加入)や保険加入状況の確認をきちんと位置づけるべきだった
  • 「自社の労災ではないから関係ない」ではなく、自社の賠償責任保険やリスク管理として事前整理しておくべきだった

④ フリーランス側の「こうしておけばよかった」

  • 建設業という高リスクの現場でありながら、労災保険の特別加入や民間の傷害保険に入っていなかった
  • 契約前に、「安全対策はどこまでやってくれるのか」「保険はお互いどうなっているのか」を確認してこなかった
  • 「今さら聞きづらい」と思い、不安を抱えたまま現場に入ってしまった

2. ケース2:IT常駐フリーランスのメンタル不調と長期離脱

※このケースも、複数のよくあるパターンをもとにした架空の事例です。

① 「ほぼ社員」として働いていた常駐フリーランス

中小IT企業C社は、大手クライアントのシステム開発プロジェクトを受注しました。
社内のエンジニアだけでは人手が足りず、フリーランスエンジニアDさんに業務委託で参画してもらうことにしました。

契約上は「業務委託」ですが、実態はほぼ社員と同じ働き方でした。

  • 平日は毎日クライアント先に常駐
  • 勤務時間も社員と同じ9時〜18時(+残業)
  • タスクや優先順位は、C社のリーダーから細かく指示
  • 有給休暇はないが、「社員と同じように頑張ってほしい」という空気

当初は、Dさんも「単価も悪くないし、スキルアップにもなる」と前向きでしたが、
次第にプロジェクトは炎上し、深夜残業や休日対応が当たり前の状態に。

② メンタル不調とプロジェクトへの影響

ある日、Dさんは朝起きても体が動かず、会社に向かうことができなくなってしまいました。
病院を受診すると、「うつ状態」と診断され、しばらく休養が必要と言われました。

しかし、

  • 業務委託契約なので、休んでいる間の収入はゼロ
  • 健康保険からの傷病手当金も受けられないケース
  • クライアント側からは「なんとか早く戻ってほしい」とプレッシャー

という状況に追い込まれます。

C社のプロジェクトも大きなダメージを受けました。

  • キーパーソンの離脱で納期が遅延
  • クライアントとの信頼関係が悪化
  • 代替要員のアサインとオンボーディングで多くのコストが発生

③ 企業側の「こうしておけばよかった」

  • 「業務委託だから労働時間管理は不要」と考えず、実態として長時間労働になっていないか定期的にチェックすべきだった
  • メンタル不調が出やすいプロジェクトであることを踏まえ、社員だけでなく常駐フリーランスも含めてケアの仕組みを検討すべきだった
  • 業務委託契約の中で、長期離脱時の対応(代替要員・検収・報酬など)をあらかじめ決めておくべきだった

④ フリーランス側の「こうしておけばよかった」

  • 開始前に、「自分は社員ではない」ことを前提に、労働時間や裁量の範囲を確認しておくべきだった
  • 長期プロジェクトであることを踏まえ、メンタル不調や休業時に備えた民間保険や貯蓄を検討しておくべきだった
  • 限界が来る前に、「このままでは続けられない」というサインを企業側と共有すべきだった

3. ケース3:在宅クリエイターの体調悪化と納期トラブル

※このケースも、在宅ワーカーに多いパターンをもとにした架空の事例です。

① 好調だったフリーランスデザイナー

フリーランスデザイナーEさんは、在宅で複数のクライアントから案件を受けていました。
デザインの評判もよく、口コミで新規の依頼も増えていきます。

「今が稼ぎどきだ」と感じたEさんは、

  • 常に複数案件を並行で進める
  • 土日も含めて1日10〜12時間PC作業
  • 運動不足・睡眠不足気味だが、「納期を守ることが最優先」

という生活を続けていました。

② 突然の体調悪化と連鎖するトラブル

ある日を境に、手首の痛みと肩こり・頭痛が強くなり、マウスやペンタブレットを握るのもつらい状態に。
病院では「腱鞘炎と頸椎のトラブル」と診断され、しばらく作業時間を大幅に減らすよう指示されます。

しかし、

  • すでに複数の納期が迫っている
  • どのクライアントも「今回が初めての依頼」という重要案件
  • 代理で対応してくれるパートナーもいない

という状況から、

  • 納期遅延やクオリティ低下が発生
  • 一部のクライアントとは関係が途切れてしまう
  • 収入が不安定になり、焦りからさらに無理をして症状が悪化

という悪循環に陥ってしまいました。

③ 企業側(クライアント)の「こうしておけばよかった」

  • 初めての取引にもかかわらず、予備日やリスクヘッジをほとんど取らない納期設定にしていた
  • 「フリーランス=自己責任」という前提で、業務量やスケジュールの現実性を一緒に検討する姿勢がなかった
  • トラブル発生時の連絡フロー(代替案・再発注先探しなど)を事前に決めていなかった

④ フリーランス側の「こうしておけばよかった」

  • 稼働時間や体力・健康状態を踏まえた、「受ける案件の上限」を自分なりに決めておくべきだった
  • 単価交渉の際に、予備日を含めたスケジュールを提案するなど、無理のない計画を出すべきだった
  • 体調不良が出始めた段階で、「悪くなる前に相談・調整する」という選択を取るべきだった

4. 3つのケースから見える「共通の落とし穴」

3つのケースは業種も状況も違いますが、共通しているポイントがあります。

共通点1:「業務委託だから自己責任」という思い込み

企業側は、

  • 「フリーランスは事業主だから、保険や健康管理は自分でやるはず」

と考えがちです。

しかし実際には、

  • 企業が現場をコントロールしている
  • 業務量や納期設定に大きな影響を与えている

など、企業側の判断がフリーランスの安全・健康に直結しているケースが多くあります。

共通点2:「契約書はあっても、肝心なことが抜けている」

金額や納期は書いてあっても、

  • 安全配慮に関する取り決め
  • 保険加入状況の確認や、事故時の負担範囲
  • 長期離脱や体調不良が起きたときの対応

といった部分は、曖昧なままにされがちです。

その結果、事故が起きてから「どうする?」と話し合いを始めることになり、
両者にとって大きなストレスと時間的なロスになります。

共通点3:「早めの相談」ができず、限界まで我慢してしまう

フリーランス側は、

  • 「仕事を減らしてほしい」と言いづらい
  • 「保険や安全の話をすると、仕事を減らされるのでは」と不安になる

という心理から、ギリギリまで我慢してしまうことが多いです。

企業側も、

  • 「事情を聞くのが怖い」
  • 「聞いたら責任を負わなければいけない気がして、つい後回しになる」

という気持ちが働き、結果として双方が沈黙を続けたまま、問題が大きくなってしまうのです。

5. 明日からできる「小さな一歩」の具体例

ここまで読むと、

  • 「全部対応するのは大変そう…」

と感じたかもしれません。

そこで最後に、明日からでも取り入れやすい「小さな一歩」をいくつか挙げてみます。

企業側の小さな一歩

  • まずは、現在取引しているフリーランス・業務委託先の一覧を作る
  • 新規案件の契約書テンプレートに、「安全配慮」「保険」「長期離脱時の対応」に関する項目を追加する
  • キックオフミーティングで、「体調や安全に不安があれば遠慮なく相談してほしい」と明言する
  • 年1回でもよいので、フリーランスを含めた安全・健康に関するアンケートを実施して現状を把握する

フリーランス側の小さな一歩

  • 自分の仕事のリスク(ケガ・メンタル・長時間労働など)を書き出してみる
  • 現状加入している保険の内容を整理し、「仕事中・通勤中のケガ」がどこまでカバーされているか確認する
  • 新しい取引先との契約前に、「保険や安全配慮について一度お話してもいいですか?」と一言添えてみる
  • 体調不良のサインを感じたとき、「完璧に言葉がまとまっていなくても、とりあえず早めに相談する」ことを自分に許可する

いきなり完璧な体制をつくる必要はありません。
小さな一歩を積み重ねることで、少しずつ「安全に働ける関係性」に近づいていきます。

Day4では、こうした学びを踏まえて、
企業側の具体的な備え(契約・体制・教育・保険)について、もう少し踏み込んだ話をしていきます。

まとめ

一文サマリ:
フリーランスとの取引で起きる労災・健康トラブルは、「特別な現場」だけでなく、ごく普通の建設・IT・在宅ワークの現場で日常的に起きており、企業とフリーランス双方の「思い込み」と「準備不足」が後悔を生み出しています。

要点のおさらい:

  • 建設現場の一人親方の墜落事故では、安全配慮や保険の確認をお互いに後回しにしていたことが、大きなダメージにつながった。
  • IT常駐フリーランスのメンタル不調は、「業務委託だから労働時間管理は不要」という発想が、長時間労働を見えにくくした一因となっていた。
  • 在宅クリエイターの体調悪化は、「今だけ無理をすれば大丈夫」という思い込みから、案件の受けすぎ・早めの相談不足が重なって起きていた。
  • 3つのケースに共通するのは、「業務委託だから自己責任」という思い込みと、「契約書・保険・相談の仕組み」が不十分なこと。
  • すべてを一気に整える必要はなく、まずは現状の棚卸しや、契約・コミュニケーションの中に「安全・健康・保険」の視点を少しずつ組み込むことが重要である。

※本記事の事例は、実際の裁判例や報道などを参考にしつつ再構成した架空のものであり、特定の企業・個人を指すものではありません。また、法的・医療的な助言を提供するものではなく、具体的な判断が必要な場合は専門家への相談をおすすめします。

FAQ(3問)

Q1. 事例のようなトラブルは、本当に中小企業や個人レベルでも起きるのでしょうか?

A. はい、起きます。
報道されたり裁判になったりするのは一部ですが、その手前の「話し合いでなんとか収めたトラブル」や、「泣き寝入り」で終わってしまったケースは、統計に現れにくいだけで数多く存在します。
規模に関係なく、人が働く以上、労災リスクや健康リスクはゼロにはなりません。

Q2. すでにフリーランスと長く付き合っており、今さら保険や契約の話を持ち出しにくいです…。

A. その気持ちは自然なものです。
ただ、「今さら」であっても、次のような伝え方であれば、むしろ信頼関係を深めるきっかけになることも多いです。

  • 「最近フリーランスの労災や健康のニュースが増えていて、〇〇さんのことも心配になりました」
  • 「お互いに安心して仕事を続けていくために、一度保険や安全面の確認をさせてもらえませんか?」

ポイントは、相手を責めるのではなく、「お互いを守るため」という前向きな理由で切り出すことです。

Q3. フリーランスとして、自分だけが「安全や保険の話」をすると、面倒な人だと思われませんか?

A. 短期的にはそう感じるクライアントもいるかもしれませんが、長期的には、
「リスクも含めてきちんと考えてくれる、プロ意識のある人」と評価されることも少なくありません。

どうしても不安な場合は、

  • 「最近こういう情報を見て、自分でも見直したいと思っていて…」
  • 「御社としても何かルールやお考えがあれば教えていただけますか?」

といったように、相手の考えを尊重しつつ話を切り出すと、対話がスムーズになりやすいです。

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