中小企業がフリーランスと安全に付き合うための実務ガイド|業務委託でもここまで備えられる

中小企業がフリーランスと安全に付き合うための実務ガイド|業務委託でもここまで備えられる
中小企業がフリーランスと安全に付き合う実務ガイド|業務委託でもできる労災・契約・保険の備え
フリーランスとの業務委託で、企業側はどこまで安全配慮や契約面・保険面の備えをしておくべきか。中小企業でも無理なく始められるチェックポイントと、90日で進める具体的なアクションプランをわかりやすく解説します。
2. はじめに
Day1〜Day3で、
- なぜフリーランスの労災リスクが深刻化しているのか
- フリーランス新法や労災保険(特別加入)といった制度の枠組み
- 実際に起こりがちな事故・トラブルのケース
を見てきました。
ここまで読んでくださった中小企業の経営者・役員の方は、心のどこかで、
- 「結局、うちとしては何をしておけばいいのだろう?」
- 「大企業のような専門部署もないし、現実的なラインが知りたい」
と感じているかもしれません。
- フリーランスの労災リスクや制度の話は、なんとなく理解できた
- ただ、社内で何から手をつければいいのかイメージが湧きづらい
- 契約書も保険も「担当者任せ」で、経営としての方針が言語化されていない
- 「自社として、フリーランスとどう付き合うか」の基本方針がある
- 安全配慮・契約・保険・社内体制のそれぞれで、最低限やることが整理されている
- 完璧ではなくても、「何もしていない状態」からは一歩抜け出せている
- なぜ「企業の備え」がここまで重要になっているのか
- 安全配慮・契約・保険・社内体制のそれぞれで、現実的にできること
- 中小企業でも取り組みやすい「90日アクションプラン」
を、できるだけ具体的に整理していきます。
※注意事項:
本記事は、企業の取り組みを考えるうえでの一般的な情報提供を目的としており、
個別のケースに対する法的アドバイスではありません。
実際の契約内容やリスク対応については、弁護士・社会保険労務士・保険の専門家などにご相談ください。
目次
- 企業の備えが重要になる3つの理由
- 安全配慮の実務:現場・情報・メンタルの3つの視点
- 業務委託契約に盛り込みたい5つのポイント
- 社内体制と保険の考え方:小さな会社でもできる現実的なライン
- 90日で進める企業側アクションプラン
本文
企業の備えが重要になる3つの理由
理由① 「業務委託=ノーリスク」の時代は終わりつつある
これまで、多くの企業は、
- 「業務委託にすれば、社会保険や労災の負担を軽くできる」
- 「何かあっても、基本は自己責任のはず」
という感覚をどこかで持っていました。
しかし、法改正や社会の流れを見ていくと、
- 形式だけ「業務委託」にして、実態は社員と同じ働き方をさせること
- 安全配慮を十分にせず、事故が起きたあとに「自己責任」と言い張ること
は、今後ますます許されにくくなっていくと考えられます。
「業務委託だから大丈夫」ではなく、「業務委託だからこそ説明責任が問われる」という前提に、頭を切り替えていく必要があります。
理由② 事故が起きたときのダメージは「法的リスク」だけではない
労災リスクというと、つい「法律違反かどうか」「罰則があるかどうか」に意識が向きがちです。
しかし実際には、
- プロジェクトの遅延や追加コスト
- 取引先・顧客からの信頼低下
- SNSや口コミでのイメージ悪化
- 社内のモチベーション低下(「うちは人を大事にしない会社だ」という空気)
など、目に見えにくい「経営ダメージ」の方が深刻なことも多くあります。
逆に、
- 「フリーランスも含めてちゃんと守ろうとしている会社」
という印象を持ってもらえれば、採用や取引にも良い影響を与えることができます。
理由③ 「備え」がそのまま採用力・発注力の差になる
優秀なフリーランスほど、
- 安全・健康に配慮してくれるか
- 契約や報酬のルールが明確か
- トラブル時にもきちんと向き合ってくれるか
を、しっかり見ています。
つまり、
- 「備え」がしっかりしている会社ほど、良いフリーランスから選ばれやすい
- 結果として、プロジェクトの成功率やスピードにも差がついていく
という構図になりつつあります。
安全配慮の実務:現場・情報・メンタルの3つの視点
ここからは、「何をどこまでやるか」をもう少し具体的に見ていきます。
安全配慮を考えるときは、次の3つの視点で整理すると分かりやすくなります。
- ① 現場の安全(フィジカル)
- ② 情報の安全(情報・IT環境)
- ③ メンタル・働き方の安全(メンタルヘルス・長時間労働)
① 現場の安全(フィジカル)
建設・製造・倉庫・配送など、物理的な現場がある仕事では、特に重要になる部分です。
チェックしておきたいポイントの例:
- フリーランスが使用する設備や機械について、危険箇所や注意点を説明しているか
- 安全帯・ヘルメット・保護具などを、従業員と同じ基準で支給・着用徹底しているか
- 現場での安全ルール(立入禁止エリア、作業手順など)を、文書や図で共有しているか
- 事故・ヒヤリハットの報告ルートに、フリーランスも含めているか
② 情報の安全(情報・IT環境)
IT・クリエイティブ・在宅ワークなどでは、情報の取り扱いが重要になります。
チェックポイントの例:
- 社内ネットワークやクラウドサービスへのアクセス権限を、必要最小限に設定しているか
- フリーランスが使うPC・スマホのセキュリティ(OS更新・ウイルス対策など)について、最低限のルールを共有しているか
- 情報漏えい時の連絡フローや対応方針を、事前に決めて共有しているか
- 在宅での作業時に、家族・第三者から画面が見えにくい環境かなども含めて確認しているか
③ メンタル・働き方の安全(メンタルヘルス・長時間労働)
Day3のITフリーランスのケースでもあったように、「見えない疲労」が大きなリスクになることがあります。
チェックポイントの例:
- プロジェクトのスケジュールが、常に残業前提・休日前提になっていないか
- 常駐や長期案件の場合、定期的に面談やヒアリングを行う仕組みがあるか
- フリーランスにも、「負荷が高いときは早めに相談してほしい」と明言できているか
- メンタル不調が疑われるサインが出たときの、社内の対応フローがあるか
これらをすべて完璧にやる必要はありません。
まずは、「従業員に対してやっている安全配慮」を、フリーランスにもどこまで広げられるかという視点で見直してみるとよいでしょう。
業務委託契約に盛り込みたい5つのポイント
次に、契約書の観点です。
ここでは、あくまで「検討ポイント」として、代表的な5つを挙げます。
※実際の条文案を作成する際は、必ず弁護士などの専門家にご相談ください。
ポイント① 安全配慮に関する基本方針
例として、次のような内容を盛り込めるかを検討します。
- 発注者は、業務の遂行にあたり、必要な安全情報・注意点を提供する
- 受注者は、提供された安全情報に従い、自らの安全確保に努める
- 双方は、事故やヒヤリハットが発生した場合、速やかに情報共有し、再発防止に協力する
細かい法的な表現は専門家に任せつつ、
「安全は一緒に守る」というスタンスを契約にも反映させることがポイントです。
ポイント② 保険加入状況の確認・情報共有
たとえば、次のような方向性が考えられます。
- 受注者は、労災保険の特別加入または同等以上の補償を有する保険への加入状況について、発注者に通知する
- 発注者は、自社が加入している賠償責任保険等の範囲について、可能な範囲で受注者に情報提供する
「どの保険に入るか」を指定するというより、
「お互いにどこまでカバーされているのかを見える化する」ことが大切です。
ポイント③ 事故発生時の報告・協議フロー
事故やトラブルが起きたときに、
- 誰に
- どのくらいのスピードで
- どんな情報を
共有するのかを、契約書や別紙の運用ルールで定めておくとスムーズです。
例:
- 「重大事故の場合は、原則当日中にメールまたは電話で連絡」
- 「軽微な事故の場合でも、月次レポート等で共有」
ポイント④ 長期離脱・業務継続に関する取り決め
病気やケガでフリーランスが長期離脱した場合に、
- 代替要員をどうするのか(企業側で用意するのか、フリーランス側で探すのか)
- 進行中の業務の中断・キャンセル・再委託の条件はどうするのか
- 報酬や違約金をどう考えるのか
といったことを、あらかじめ方向性だけでも決めておくと、
実際にトラブルが起きたときに話し合いやすくなります。
ポイント⑤ 契約終了時の情報・機材の取り扱い
労災リスクとは少し違いますが、安全・信頼の観点で重要なポイントです。
例:
- 契約終了時に、データや機密情報をどのように削除・返却するか
- 貸与した機材(PC・スマホ・セキュリティカードなど)の返却方法
- コンプライアンスに関する誓約(終了後も一定期間守るべき事項など)
これらを明確にしておくことは、お互いに安心して仕事を始め、終えるための土台になります。
社内体制と保険の考え方:小さな会社でもできる現実的なライン
① 「担当者を決める」だけでも大きな前進
中小企業では、
- 総務・人事・法務の専任担当者がいない
- 社長や現場リーダーが兼務している
ということも多いと思います。
そんな中でも、
- 「フリーランス対応の窓口はこの人(この部署)」
と決めるだけで、
- 情報が分散せず、
- トラブルが起きたときに相談先がはっきりし、
- 少しずつノウハウが蓄積される
という効果があります。
② 「ひな型+チェックリスト」でムリなく運用する
すべての案件でゼロから検討していると、担当者が疲弊してしまいます。
そこで、
- 業務委託契約書のひな型(社内標準)
- 契約前の確認事項チェックリスト(安全・保険・情報・メンタルなど)
を用意しておき、
- 標準から外れる部分だけを個別検討する
という運用にすると、現場の負担を抑えながら質を保ちやすくなります。
③ 保険の考え方:すべてをカバーしようとしない
保険について考えるときに大切なのは、
- 「すべてのリスクを保険でカバーしよう」としないこと
です。
現実的には、
- 自社の労災保険(従業員向け)
- 請負業者賠償責任保険などの賠償系保険
- フリーランス側の労災特別加入や民間保険
などを組み合わせながら、
- 「どのリスクは自社が主に負うのか」
- 「どのリスクはフリーランス側にも持ってもらうのか」
- 「どういうときに保険を使えるのか」
を整理しておくイメージです。
ポイントは、「備えないリスク」も意識的に選ぶこと。
限られた予算の中で、
- 発生頻度は低いが、起きたら致命的なリスク
- 発生頻度は高いが、ダメージは小さいリスク
を見極めながら、優先順位をつけていくことが大切です。
④ 専門家と「パートナーシップ」を築く
法改正や保険商品は、年々変わっていきます。
すべてを自社だけで追いかけるのは、現実的ではありません。
そこで、
- 顧問社労士・顧問弁護士
- 信頼できる保険代理店
- 商工会議所などの公的相談窓口
といった外部パートナーとつながりを作り、
- 年に1回「フリーランス対応」の見直し相談をする
- 大きな制度変更があったときに、勉強会をお願いする
などの形で、「一緒にアップデートしていく」関係をつくっていくのがおすすめです。
5. 90日で進める企業側アクションプラン
最後に、Day4の内容を「行動」に落とし込むために、
約90日(3か月)をイメージした簡単なロードマップをご提案します。
【1〜30日目】現状把握と「方針の仮決め」フェーズ
- 現在取引しているフリーランス・業務委託先の一覧を作る
- 契約書・覚書・メールなど、条件を確認できるものを集める
- 現場担当者にヒアリングし、「不安に感じていること」を洗い出す
- 経営層+担当者で、「自社として大切にしたい考え方(安全・信頼・コストなど)」を話し合う
- ひとまずの方針(例:フリーランスにも安全教育を行う/特別加入の確認を行う等)を仮決めする
【31〜60日目】ひな型づくりと簡易ルールの導入フェーズ
- 弁護士などと相談しながら、業務委託契約書の「標準ひな型」を整える
- 契約前チェックリスト(安全・保険・情報・メンタル)を作成する
- 新規フリーランスには、原則として標準ひな型+チェックリストを適用する
- 安全に関する簡単な資料(1〜2枚)を作成し、キックオフ時に共有する
【61〜90日目】社内浸透と見直しフェーズ
- 現場リーダー向けに、「フリーランス対応のポイント」を共有するミニ研修を行う
- 実際に運用してみて、現場からのフィードバックを集める
- 契約書ひな型やチェックリストを、フィードバックを踏まえて微修正する
- 今後1年の間に見直したいテーマ(例:保険、メンタルケア、情報セキュリティなど)を決める
このように分けて考えることで、
- 「一気に完璧にする」のではなく、
- 「まずは現状把握 → ひな型づくり → 浸透・改善」というステップで進める
イメージを持ちやすくなります。
Day5では、視点をフリーランス側に移し、
「フリーランス自身が今日からできる備え」をチェックリスト形式でまとめていきます。
まとめ
一文サマリ:
フリーランスとの業務委託において、企業側が行うべき安全配慮・契約・保険・体制づくりは、「完璧さ」よりも「方針と最低限の仕組み」を持つことが重要であり、それだけでも労災リスクやトラブルを大きく減らすことができます。
要点のおさらい:
- 「業務委託だからノーリスク」という考え方は通用しにくくなっており、企業側にも一定の安全配慮や説明責任が求められている。
- 安全配慮は、「現場の安全」「情報の安全」「メンタル・働き方の安全」という3つの視点で整理すると、やるべきことが見えやすくなる。
- 業務委託契約には、安全配慮の方針・保険の情報共有・事故時の報告フロー・長期離脱時の取り扱い・契約終了時の情報管理などを盛り込むことを検討したい。
- 中小企業でも、担当者を決める・ひな型とチェックリストを用意する・外部専門家と連携することで、無理なくフリーランス対応の質を高めることができる。
- 約90日(3か月)を目安に、「現状把握 → ひな型づくり → 社内浸透と見直し」というステップで進めると、具体的な行動に落とし込みやすい。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な契約・保険・労務対応については、専門家へのご相談をおすすめします。
FAQ(3問)
Q1. うちは従業員が10人未満の小さな会社です。それでもここまでやる必要がありますか?
A. 「規模が小さいから何もしなくてよい」というわけではありませんが、
すべてを一度に完璧に行う必要はありません。
まずは、
- フリーランスとの取引の棚卸し
- 担当者・窓口の明確化
- 簡単なチェックリストや契約ひな型の準備
といった「基本の3点セット」から始めるだけでも、リスクは大きく変わります。
自社のリソースに合わせて、少しずつステップアップしていくイメージで問題ありません。
Q2. フリーランスに「労災の特別加入や保険の話」をすると、嫌がられないでしょうか?
A. 伝え方次第ですが、多くの場合はむしろ、
「自分のことをきちんと考えてくれている会社だ」と好意的に受け止められます。
たとえば、
- 「お互いに安心して長くお付き合いしたいので、保険や安全のことも一度確認させてください」
といった形で、関係性を守るための前向きな提案として伝えるのがおすすめです。
Q3. 専門家に相談したいのですが、誰に何を相談すればいいか分かりません。
A. ざっくりとした目安としては、
- 契約書の内容・フリーランス新法との関係: 弁護士
- 労災保険・特別加入・労働安全衛生の基本: 社会保険労務士
- 賠償責任保険やその他の企業保険: 保険代理店・保険会社
が、それぞれの得意分野になります。
まずは、
- 「フリーランスとの取引を安全に進めるために、何から整えるべきか相談したい」
と伝えれば、必要に応じて他の専門家を紹介してもらえることも多いです。
地域の商工会議所や中小企業向けの相談窓口を活用する方法もあります。
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