「うちは大丈夫」が一番危ない?中小企業が情報セキュリティへの投資を考えるべき理由

「うちは大丈夫」が一番危ない?中小企業が情報セキュリティへの投資を考えるべき理由
「うちは大企業ではないから、わざわざ狙われることはないだろう」
「セキュリティ対策が必要なのは分かる。でも、そこに使える予算はない」
「売上につながる投資なら分かるけれど、セキュリティは費用対効果が見えにくい」
中小企業や個人事業主の方からすると、こう感じるのは決して不自然なことではありません。
人も予算も限られている中で、営業、採用、設備、人件費、原材料費など、先に考えなければならないことがたくさんあるからです。
しかし、ここで一度考えておきたいことがあります。
情報セキュリティ対策は、本当に「ITにかける追加コスト」なのでしょうか。
これからの中小企業にとっては、情報セキュリティは単にパソコンをウイルスから守るためのものではありません。
事業を止めないこと、取引先からの信用を守ること、そして取引を続けるための経営基盤として考える必要性が高まっています。
Quick Answer:セキュリティ投資は「攻撃されるかどうか」だけで考えない
中小企業の情報セキュリティ投資を考えるとき、最初に確認したいのは「自社がサイバー攻撃を受ける確率」だけではありません。
見るべきなのは、次のような経営への影響です。
- 業務が止まったら、何日まで耐えられるか
- 顧客情報や取引情報が漏れたら、誰に影響するか
- 取引先からセキュリティ対策を求められたとき、説明できるか
- 自社が原因で取引先へ被害が広がった場合、信用を維持できるか
- 事故発生後の復旧費用や売上損失に耐えられるか
つまり、情報セキュリティへの投資は、単なる「IT費用」ではなく、事業継続・信用・取引を守るためのリスク対策として考えることが重要です。
目次
- なぜ中小企業ではセキュリティ投資が進まないのか
- 「必要性を感じていない」という大きな壁
- 自社だけ守ればよい時代ではなくなっている
- セキュリティ不足が取引条件になる可能性
- 中小企業が抱える「三重苦」
- 最初に必要なのは、高額な製品ではなく「現在地を知ること」
なぜ中小企業ではセキュリティ投資が進まないのか
「セキュリティ対策をしていない会社は、危機意識が低い」
そう単純に片付けるべきではありません。
中小企業の場合、対策が進まない背景には非常に現実的な事情があります。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が全国の中小企業4,191社を対象に実施した2024年度の調査では、直近過去3期に情報セキュリティ対策への投資を行っていない企業は62.6%でした。
つまり、セキュリティ投資をしていない中小企業は決して珍しい存在ではありません。
問題は、「投資していない」という事実だけではなく、なぜ投資していないのかです。
「必要性を感じていない」が44.3%という現実
同じIPAの調査では、情報セキュリティ対策へ投資をしなかった理由として最も多かった回答が、
「必要性を感じていない」44.3%
でした。
続いて、
- 費用対効果が見えない:24.2%
- コストがかかりすぎる:21.7%
となっています。
ここには、中小企業のセキュリティ対策を考えるうえで非常に重要なポイントがあります。
「お金がないからできない」以前に、そもそも自社に必要なのかどうか分からないという問題があるのです。
たとえば、こんな認識はないでしょうか。
- うちは有名企業ではないから狙われない
- 盗まれて困るような情報は持っていない
- パソコンにはウイルス対策ソフトが入っている
- 今まで被害に遭っていないから問題ない
- 何か起きてから考えればよい
しかし、セキュリティ対策の必要性は「会社が有名かどうか」だけで決まるものではありません。
メールを使う。クラウドサービスを使う。ネットバンキングを利用する。取引先とデータをやり取りする。顧客情報を保管する。
こうした通常の業務を行っていれば、情報セキュリティはすでに経営と切り離せない問題になっています。
自社だけ守ればよい時代ではなくなっている
さらに重要なのが、サプライチェーンリスクです。
難しく聞こえるかもしれませんが、考え方はシンプルです。
攻撃者が本当に狙いたい会社へ直接侵入するのが難しい場合、取引先や委託先など、周辺の企業を経由して侵入を試みることがあります。
IPAも、サプライチェーンを構成する中小企業のセキュリティ対策が不十分な場合、自社の事業に支障が生じるだけでなく、重要情報の流出、製品・サービスの供給停止、さらにはその企業を踏み台として取引先が攻撃される可能性を指摘しています。
つまり、
「うちには盗まれるほど重要な情報がない」
という話だけでは済まないということです。
自社が取引先への「入口」になってしまう可能性まで考えなければなりません。
実際に、自社の事故が取引先まで影響している
IPAの2024年度調査では、2023年度にサイバーインシデントの被害を受けたと回答した企業975社のうち、約7割が取引先にも何らかの影響があったと回答しています。
具体的には、
- サービス停止や遅延によって取引先に影響が出る
- 法人取引先への補償負担が発生する
- 原因調査や復旧のための費用が発生する
といった問題につながっています。
これは、セキュリティ事故が「自社のパソコンが使えなくなる問題」ではないことを意味しています。
取引先の仕事まで止めてしまう可能性のある経営リスクなのです。
セキュリティ不足が「取引」の問題になり始めている
もう一つ、中小企業経営者が知っておきたい変化があります。
情報セキュリティへの取り組みが、取引先を選ぶ際の判断材料になりつつあることです。
株式会社ミツモアが2025年12月に、従業員1,000人以上の企業の発注業務担当者221人と、従業員300人以下の中小企業側221人、合計442人を対象に実施した調査があります。
その調査では、大企業側の66.8%が、取引先のセキュリティ不備を理由に「契約停止や改善要求など、何らかの取引見直しを行った」と回答しています。
内訳としては、
- 契約更新を見送った・停止した:40.0%
- 新規取引の提案・見積もりを断った:26.4%
という結果でした。
これは民間企業が特定条件で実施した調査であり、「日本の大企業すべての約7割が同じ対応をしている」と一般化できる数字ではありません。
ただし、セキュリティ対策が単なる社内管理ではなく、取引先選定や契約継続の判断材料になり得ることを考えるうえでは、無視できない変化です。
「セキュリティは売上を生まない」は本当か
セキュリティ投資について、よく聞く言葉があります。
「セキュリティに100万円使っても、売上が100万円増えるわけではない」
確かに、その通りです。
広告や営業活動のように「この投資でいくら売上が増えた」と計算することは簡単ではありません。
しかし、セキュリティ投資を売上だけで評価すると、判断を誤る可能性があります。
たとえば店舗の火災保険や工場設備の安全点検も、それ自体が直接売上を生むわけではありません。
それでも費用をかけるのは、事故が起きたときの損失と、事業を続けられなくなるリスクを考えるからです。
情報セキュリティも同じように、
「いくら儲かるか」だけではなく、「何を失わないための投資なのか」
という視点で考える必要があります。
中小企業を悩ませる「三重苦」
とはいえ、「だったらすぐ対策しましょう」と言われても、現場では簡単ではありません。
先ほどのミツモアの調査では、中小企業がセキュリティ対策を進められない背景として、
- 予算がない
- 取引条件について交渉しにくい
- 何をすべきか分からない
という課題が示されています。調査では「予算不足」31.3%、「契約を切られるのが怖くて交渉できない」8.1%、「何をすべきかわからない」11.4%という回答がありました。
まさに、「予算・交渉力・知識」の三重苦です。
だからこそ、中小企業の情報セキュリティ対策で重要なのは、
「全部やる」ことではありません。
自社にとって何が重要で、どこにリスクがあり、何から優先して対策すべきなのかを整理することです。
最初に必要なのは、高額な製品ではなく「現在地を知ること」
「セキュリティ対策」と聞くと、高価な機器やサービスを購入することを想像する方もいるかもしれません。
しかし、最初から製品を買う必要はありません。
むしろ最初にやるべきなのは、自社の現在地を知ることです。
例えば、次の質問にすぐ答えられるでしょうか。
- 会社で使っているパソコンやスマートフォンは何台あるか
- 退職者のアカウントは確実に削除されているか
- 重要なデータのバックアップはあるか
- そのバックアップから本当に復元できるか
- メールやクラウドサービスで多要素認証を使っているか
- 誰がどの顧客情報へアクセスできるか把握しているか
- サイバー事故が起きたとき、最初に誰へ連絡するか決まっているか
- 取引先からセキュリティ状況を聞かれたら説明できるか
もし、「分からない」「確認したことがない」という項目があっても、そこで落ち込む必要はありません。
それが、対策を始めるための現在地です。
IPAでは、個人事業主や小規模事業者を含む中小企業向けに「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」を公開しており、2026年7月には第4.0版が公開されています。経営者が認識すべき考え方と、実際に対策を進める手順の両方がまとめられています。
大切なのは、いきなり完璧を目指すことではありません。
分からないまま放置する状態から、「自社の弱いところを把握している状態」へ一歩進むことです。
情報セキュリティを「保険」だけでなく「信用への投資」と考える
情報セキュリティには、もう一つの側面があります。
それは、取引先へ安心を説明するための材料になることです。
IPAの2024年度調査では、発注元から情報セキュリティ対策の要請を受けた経験がある企業のうち、専門部署または担当者などのセキュリティ体制を整えている企業では、59.8%が「対策を行ったことが取引につながった大きな要因だと思う」と回答しました。
一方、セキュリティ対策を各自に任せている企業では24.2%でした。
もちろん、セキュリティ対策をすれば必ず契約が取れるという意味ではありません。
しかし、
「当社はこういう対策をしています」と説明できる会社と、「よく分かりません」という会社。
発注する側から見たとき、その違いが信用判断の一つになることは十分に考えられます。
今日できること:まず5分で「うちは大丈夫」を確認する
今日、高価なセキュリティ製品を購入する必要はありません。
まず社内で、次の5つだけ確認してみてください。
- OSやソフトウェアの更新を止めているパソコンはないか
- 重要なサービスで同じパスワードを使い回していないか
- メールやクラウドで多要素認証を使っているか
- 重要データをバックアップしているか
- 事故が起きた場合、最初に誰へ連絡するか決まっているか
一つでも「分からない」があれば、そこが最初に確認するポイントです。
情報セキュリティ対策は、恐怖から始める必要はありません。
まず「自社の状態を知る」。そして、経営への影響が大きいところから順番に対策する。
それだけでも、十分な第一歩です。
まとめ+要約
中小企業や個人事業主にとって、情報セキュリティ対策は「大企業だけの問題」ではなくなっています。
IPAの2024年度調査では、情報セキュリティ投資を行っていない企業が62.6%あり、その理由として最も多かったのが「必要性を感じていない」の44.3%でした。
しかし、現在の情報セキュリティは、自社だけの問題ではありません。
自社の事故によって取引先へ影響が広がる可能性があり、取引先からセキュリティ対策を求められる場面もあります。
したがって、セキュリティへの投資は、単なるITコストではなく、
- 事業を止めないための投資
- 顧客や取引先からの信用を守るための投資
- 既存取引を継続するための投資
- 将来の取引機会を失わないための投資
として考える必要があります。
そして重要なのは、最初から大きな予算を使うことではありません。
「うちは大丈夫」と思い込む前に、自社の現在地を確認すること。
そこが情報セキュリティ投資を考える最初の一歩です。
Key Takeaways
- 情報セキュリティ対策をしていない中小企業は珍しくなく、IPA調査では直近過去3期で62.6%が投資をしていない。
- 投資しない理由の最多は「必要性を感じていない」44.3%であり、コストだけでなく必要性の認識そのものが課題になっている。
- セキュリティ事故は自社だけで完結せず、取引先やサプライチェーンへ影響する可能性がある。
- セキュリティ対策の状況が、取引先選定や契約継続の判断材料になるケースも出ている。
- 最初に高額な製品を買うのではなく、自社の情報・機器・アカウント・バックアップ・事故対応体制を把握することが重要。
よくある質問
Q1. 小さな会社でも本当に情報セキュリティ対策は必要ですか?
必要性は会社の規模だけでは決まりません。顧客情報、取引情報、メール、クラウドサービス、ネットバンキングなどを利用していれば、事故が業務や取引先へ影響する可能性があります。まずは自社がどの情報やシステムに依存しているのかを確認することが大切です。
Q2. セキュリティ対策には多額の費用が必要ですか?
必ずしもそうではありません。OSの更新、パスワード管理、多要素認証、バックアップ、退職者アカウントの削除など、費用を大きくかけずに見直せる項目もあります。重要なのは、自社のリスクに応じて優先順位をつけることです。
Q3. ウイルス対策ソフトが入っていれば十分ですか?
ウイルス対策ソフトは重要な対策の一つですが、それだけですべてのリスクへ対応できるわけではありません。アカウント管理、バックアップ、アップデート、メール対策、社員教育、事故発生時の対応なども含めて考える必要があります。
Q4. 「うちには重要な情報がない」場合でも必要ですか?
顧客情報そのものだけがリスクではありません。メールアカウントや取引先との接続環境などを悪用され、自社が他社を攻撃するための入口として利用される可能性があります。そのため、取引関係を含めて考える必要があります。
Q5. まず何から始めればよいですか?
最初は製品選びではなく現状確認がおすすめです。利用中の機器・サービス、重要データ、アカウント、バックアップ、現在行っている対策を書き出し、「できている・できていない・分からない」に分けるだけでも、優先順位が見えやすくなります。
次の記事
では、実際に中小企業や個人事業主は、どのようなところから狙われるのでしょうか。
「怪しいメールを開かなければ大丈夫」と考えていると、見落としてしまう入口があります。
Day2では、「なぜ小さな会社も狙われるのか?サイバー攻撃が起きる仕組みと、狙われやすいポイント」を、専門用語をできるだけ使わずに解説します。
「うちの場合、何から確認すればいいのだろう?」と感じた方へ
セキュリティ対策は、会社によって必要な内容が異なります。高額な製品を導入する前に、まず現在の状況を整理し、優先順位を決めることが大切です。
📩 あなたの状況に合わせた具体的なアドバイスが欲しい方は、LINEで相談するから気軽にご相談ください。
内部リンク案
- 「中小企業が最低限やっておきたい情報セキュリティ対策」→ 基本対策の記事
- 「多要素認証とは?小さな会社でも必要な理由」→ アカウント保護の記事
- 「バックアップだけでは不十分?復旧まで考えるデータ保護」→ バックアップの記事
- 「サイバー攻撃を受けたとき最初にやること」→ インシデント対応の記事
Sources / Evidence
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」:全国の中小企業4,191社を対象。セキュリティ投資の有無、投資しない理由、取引先への影響、取引との関係などを参照。
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」:個人事業主、小規模事業者を含む中小企業向けの対策指針。
- 株式会社ミツモア「サプライチェーンセキュリティに関する実態調査」:2025年12月25~27日実施。大企業側221人、中小企業側221人を対象。セキュリティ不備による取引見直し、対策を進めにくい理由などを参照。民間調査のため、母集団・調査条件を踏まえて解釈する必要があります。