2026年法改正までに整える!中小企業のハラスメント対策「実務ガイド」【Day4】

2026年法改正までに整える!中小企業のハラスメント対策「実務ガイド」【Day4】

はじめに

Day1〜3では、

  • ハラスメント対策が「知らなかったでは済まされない」状況になっていること
  • 各種ハラスメントの定義と、どこからがアウトなのか
  • 中小企業で実際に起きた失敗事例・ヒヤリハット

を見てきました。

ここまで読むと、多くの経営者・役員の方は、心の中でこんな声が出てくると思います。

・「結局、うちの会社では何から始めればいいのか?」
・「就業規則って、どこまで細かく書く必要があるの?」
・「相談窓口や調査って、小さい会社でも本当にできるのか?」

そこでDay4では、いよいよ「実務」の話に踏み込みます。

・就業規則・社内規程に必ず入れておきたい内容
・相談窓口・調査フローの現実的な作り方
・2026年までに義務化されるカスタマーハラスメント対策の落とし込み方
・研修や周知を、なるべく負担をかけずに回すコツ

などを、「従業員数数十名の中小企業でも実行できるレベル」にかみ砕いて整理します。

完璧な仕組みを一気に作る必要はありません。
「まずはここまで整えれば、会社も人もかなり守れる」という実務ラインを、一緒に確認していきましょう。

1. この回のゴール:2026年までに「最低限ここまで」を整える

2026年前後に向けて、ハラスメント関連の法整備はさらに進みます。

  • パワハラ・セクハラ・妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント対策は、すでに事業主の義務
  • カスタマーハラスメント対策も、改正労働施策総合推進法により全ての事業主に対する義務として位置づけられ、2026年中に施行予定
  • 求職者へのセクハラ(いわゆる「就活ハラスメント」)についても、防止措置の義務化が進む方向

こうした流れを踏まえると、中小企業としては、

「最低限、ここまで整えておけば、会社も人も守れる」

というラインを意識しておきたいところです。

Day4のゴールは、次の3つです。

  1. ハラスメント対策の全体像を「3層モデル」でイメージできるようになる
  2. 自社の就業規則・社内規程・相談窓口・対応フローの足りない点が分かる
  3. 90日以内に着手する「具体的なアクションリスト」が手元に残る

一つずつ見ていきましょう。

2. ハラスメント対策の「3層モデル」で全体像を設計する

ハラスメント対策というと、「就業規則を直さなきゃ」「研修しなきゃ」と、やることがバラバラに見えがちです。

そこで、ここでは3つのレイヤーに分けて整理します。

2-1. レイヤー1:方針・ルール(就業規則・社内規程)

会社としての「スタンス」と「ルール」を文章で示す部分です。

  • ハラスメントを許さないという基本方針
  • どのような行為がハラスメントに当たるのかという定義・具体例
  • 相談窓口や調査・懲戒のルール

ここが曖昧だと、「人によって対応が違う」「会社として本気なのか分からない」という不信感につながります。

2-2. レイヤー2:体制・フロー(相談窓口・調査の流れ)

ルールを実際に動かすための「しくみ」です。

  • 誰が、どこで、相談を受けるのか(相談窓口)
  • 相談を受けたあと、どのような手順で事実確認・判断をするのか(調査フロー)
  • 再発防止やフォローをどう行うか

いくら立派な就業規則があっても、
「相談が来たときに実際に動ける体制」がなければ、絵に描いた餅になってしまいます。

2-3. レイヤー3:教育・日常運用(研修・周知・記録)

最後に、日々の運用です。

  • 管理職・従業員への研修・eラーニング
  • ポスター掲示や社内メールなどによる周知
  • 相談・対応の記録を残す仕組み

特に中小企業では、「研修を何時間もやる」ことよりも、

・短時間でもいいので、年に1回は方針と基本ルールを伝える
・相談があったときの対応を必ず記録する

といった「小さくても続けられる仕組み」を作ることが重要です。

3. 就業規則・社内規程に必ず入れておきたい5つのポイント

ここでは、就業規則やハラスメント防止規程に、最低限入れておきたい内容を整理します。

3-1. (1)ハラスメントを許さない「基本方針」の明記

まずは、会社としてのスタンスを一文で示します。

例:

当社は、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント、カスタマーハラスメントなど、あらゆるハラスメント行為を許しません。
従業員一人ひとりの人格と尊厳を守り、安全で働きやすい職場環境を維持するため、必要な措置を継続的に講じます。

短くて構いませんが、

  • 対象となるハラスメントの範囲
  • 会社として従業員を守る意思

が伝わるようにしておきましょう。

3-2. (2)対象となるハラスメントの種類と範囲

続いて、「何がハラスメントに当たるのか」の基本的な定義を示します。

  • 職場におけるパワーハラスメント
  • 職場におけるセクシュアルハラスメント
  • 妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント
  • 顧客や取引先からのカスタマーハラスメント
  • 求職者・インターン等に対するハラスメント

それぞれについて、「代表的な行為の例」を数行ずつ記載しておくと、現場にとって具体的な指針になります。

例:

  • パワハラ:人格を否定するような叱責、仕事を与えない・隔離する等
  • セクハラ:性的な冗談、外見や年齢に関する不適切な発言、不必要な身体的接触等
  • マタハラ等:妊娠・出産・育児・介護に関する制度利用を理由とした不利益な取扱い等

3-3. (3)相談窓口と相談方法

「どこに相談すればよいか」が分からないと、せっかくのルールも機能しません。

就業規則や別紙の規程で、次の内容を明記しておきましょう。

  • 社内の相談窓口(例:社長直通、総務担当、ハラスメント相談担当など)
  • 外部の相談窓口(社会保険労務士、産業保健スタッフ、顧問弁護士など)を利用している場合はその連絡先
  • 相談方法(口頭・メール・書面など)と受付時間
  • 匿名相談の可否
  • 相談したことを理由とする不利益な取扱いは行わないこと

ここを丁寧に書いておくと、従業員が「言ってもムダ」と感じにくくなります。

3-4. (4)調査・対応の流れと守秘義務

相談を受けた後の流れも、あらかじめ整理しておきます。

  • 事実確認の方法(関係者へのヒアリング、メール・チャットの確認など)
  • 必要に応じた一時的な措置(配置配慮、接触機会の制限など)
  • 結論の伝え方(本人への説明の仕方、記録の残し方)
  • 関係者の守秘義務(知り得た情報を他言しないこと)

特に小さな会社では、「噂がすぐ広まる」リスクがあります。
だからこそ、「相談内容は限られたメンバーだけで扱う」ことを明文化しておくことが重要です。

3-5. (5)懲戒・是正措置の考え方

最後に、「ハラスメント行為が認められた場合の対応」を示します。

例:

  • 事実関係に応じて、注意指導・配置転換・減給・出勤停止・懲戒解雇などの措置を講じる場合があること
  • 懲戒の有無・程度は、行為の内容・頻度・結果・本人の反省状況などを総合的に勘案して決定すること

「必ず解雇する」といった極端な書き方は避けつつ、
「会社として見過ごさない」姿勢を示しておくことが大切です。

4. 相談窓口・調査フローをどう設計するか(小規模企業向け)

4-1. (1)相談窓口のパターンとメリット・デメリット

中小企業でよくある相談窓口パターンは、次の3つです。

パターンA:社長(または役員)が窓口になる

  • メリット:決定が早い、対応をその場で変えやすい
  • デメリット:相談しにくいと感じる従業員も多い、社長本人が加害側の場合は機能しない

パターンB:総務・人事担当者を窓口にする

  • メリット:事務的な記録管理と相性がよい、社長より相談しやすい
  • デメリット:マンパワーが足りないと、対応が後回しになりがち

パターンC:外部専門家(社労士等)を窓口にする

  • メリット:従業員が安心して相談しやすい、専門的なアドバイスが得られる
  • デメリット:コストがかかる、社内との情報共有ルールを決める必要がある

おすすめは、「社内窓口+外部窓口」の二本立てです。

就業規則や社内掲示では、

  • まず社内窓口に相談してよいこと
  • 社内で相談しにくい場合には、外部窓口も利用できること

を明記しておくと、従業員の安心感が高まります。

4-2. (2)基本フロー:受付→事実確認→判断→フォロー

相談を受けた後の基本的な流れは、シンプルにまとめると次の4ステップです。

  1. 受付:相談内容を聞き取り、メモを残す(日時・場所・関係者・具体的な言動など)
  2. 事実確認:必要に応じて、加害側・目撃者・関係者からも事情を聞く
  3. 判断・対応:ハラスメントに該当するかどうかを判断し、是正措置や懲戒の要否を決める
  4. フォロー:被害者・加害者双方へのフォロー、再発防止策の実施

重要なのは、

  • 「相談があったのに何もしない」状態を作らないこと
  • 結果にかかわらず、「どう対応したか」を記録に残しておくこと

です。

調査する側は、「誰かを悪者にする」ためではなく、
「事実をできるだけ正確に把握して、職場環境を改善する」視点を忘れないことが大切です。

5. カスタマーハラスメント対策を社内ルールに落とし込む

5-1. (1)カスハラの定義と「正当なクレーム」との違い

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、簡単に言うと、

顧客や取引先などが、その立場を利用して、
暴言・暴力・過度な要求などにより、従業員の就業環境を著しく害する行為

です。

ここで重要なのは、「正当なクレーム」との区別です。

  • 商品の不具合やサービスのミスを、冷静に指摘すること → 正当なクレーム
  • 問題を指摘する際に、必要以上に大声を出し続ける、人格を否定する暴言を吐く、土下座を要求する → カスハラの可能性

社内ルール上も、

  • 「お客様からの正当なご意見・ご要望には真摯に対応する」
  • 「一方で、暴言・暴力・過度な要求など、従業員の心身を害する行為には応じない」

という両方を明記しておくと、現場も判断しやすくなります。

5-2. (2)会社として「どこで線を引くか」を決める

カスハラへの対応で混乱が起きるのは、「どこまでやるのか」を現場任せにしているときです。

具体的には、例えば次のような方針を決めておきます。

  • 長時間にわたるクレーム(例:30分以上)の場合は、店長・責任者に引き継ぐ
  • 大声で怒鳴る、人格否定の暴言、土下座の要求などが見られた場合は、「これ以上の対応はできません」と伝え、必要に応じて警察への相談も検討する
  • SNSでの晒し行為が行われた場合の社内報告ルート

こうした方針は、就業規則の他に、「カスタマーハラスメント対応マニュアル」のような形で簡単にまとめておくと、なお有効です。

5-3. (3)現場で使えるエスカレーション・対応ステップ

現場の従業員が実際に使いやすいように、対応ステップを3段階くらいに整理しておきましょう。

  1. 第1段階:通常のクレーム対応
    ・事実を確認し、ミスがあれば素直に謝罪・説明
    ・感情的にならず、相手の話を一定時間きちんと聞く
  2. 第2段階:エスカレーション
    ・大声・暴言・長時間拘束などの兆候が見られたら、店長・責任者に引き継ぐ
    ・一人で抱え込まず、必ず誰かを呼ぶ
  3. 第3段階:対応の打ち切り・安全確保
    ・土下座要求や危険な言動が続く場合は、「これ以上のご対応はできません」と打ち切る
    ・必要に応じて警察・ビル管理会社などに相談する

カスハラ対策は、

「従業員を一人にしない」「会社が後ろ盾になる」

ことが何より大切です。

6. 研修・周知をムリなく回すための工夫

6-1. (1)最低限やっておきたい3つの施策

「研修」と聞くと構えてしまいますが、最低限、次の3つを押さえておけば十分実務的です。

  1. 年1回の短時間レクチャー(30〜60分程度)
    ・全従業員向けに、「会社の方針」「NG例」「相談窓口」を説明
    ・対面でもオンラインでもOK。録画して後から見られるようにしても良いでしょう。
  2. 管理職向けの個別フォロー
    ・「叱り方」「評価面談での言い方」「妊娠・育児の相談への対応」など、管理職特有の場面を想定した勉強会を行う
  3. 社内掲示・社内ポータルでの周知
    ・ハラスメント相談窓口の掲示
    ・カスハラ対策ポスターの掲示
    ・年度初めや人事異動のタイミングで、メールやチャットで再周知

6-2. (2)日常会話レベルでの伝え方

研修以外にも、日々のコミュニケーションの中で、次のような一言を繰り返すだけでも、職場の空気は変わります。

  • 「何かあったら、一人で抱え込まずに相談してね」
  • 「お客様が相手でも、理不尽な要求には応じなくていいから、すぐ呼んで」
  • 「妊娠・育児・介護のことも、遠慮せずに早めに相談して」

こうした言葉は、就業規則以上に、会社の本音として従業員の心に残ります。

逆に、

  • 「多少のことは我慢して」
  • 「お客様は絶対だから」

といった言葉は、ハラスメントやカスハラを「黙って受けろ」というメッセージとして伝わってしまうことがあります。

7. 90日で整える「ハラスメント対策ミニ・ロードマップ」

最後に、Day1〜Day4の内容を、「90日でここまでやる」という形に落とし込んでみます。

【1〜30日目】現状把握と方針づくり

  • 現在の就業規則・社内規程をチェックし、ハラスメント関連の項目を洗い出す
  • 相談窓口・調査フロー・カスハラ対応について、現状どうなっているか整理する
  • 経営者としての「基本方針」の草案を作る

【31〜60日目】ルールと体制を整える

  • 就業規則・ハラスメント防止規程の改定案を作成し、社労士等と相談する
  • 社内窓口+外部窓口の体制を決める
  • カスハラ対応方針とエスカレーションルールを作る

【61〜90日目】周知・研修と運用開始

  • 全従業員向けに、方針・ルールの説明会(30〜60分)を実施
  • 管理職向けのミニ研修(ケーススタディ中心)を実施
  • 相談窓口の案内ポスター・社内メールでの周知
  • 相談・対応の記録フォーマットを決め、運用をスタート

完璧を目指すと止まってしまいます。
「できるところから、でも必ず進める」ことが、何より大切です。

8. まとめ+要約

▼この記事の要点

  • ハラスメント対策は「方針・ルール」「体制・フロー」「教育・日常運用」の3層で考えると整理しやすい。
  • 就業規則・社内規程には、基本方針、対象となるハラスメント、相談窓口、調査・対応の流れ、懲戒・是正措置の考え方を最低限盛り込んでおく必要がある。
  • 相談窓口は、「社内窓口+外部窓口」の二本立てにすることで、従業員が相談しやすくなり、会社としてもリスク管理がしやすくなる。
  • カスタマーハラスメントについては、「正当なクレーム」との違いを明確にし、どこで線を引くか・どうエスカレーションするかを社内ルールとして決めておくことが重要である。
  • 研修は、年1回の短時間レクチャー+管理職向けフォロー+社内掲示・周知の3つに絞れば、中小企業でも無理なく継続しやすい。
  • 90日間で「現状把握→ルールと体制づくり→周知・運用開始」という流れを踏めば、2026年の法改正に向けたベースづくりが十分に可能である。

9. FAQ(よくある質問)

Q1. 就業規則の改定には時間もお金もかかるイメージがあります。後回しにして、まず研修だけやるのはアリでしょうか?

A. 研修だけ先にやることも意味はありますが、「会社としてのルールが文書で示されていない」状態が続くリスクは残ります。できれば、方針と基本ルールだけでも簡易な社内規程としてまとめ、その骨格をもとに研修を行うのがおすすめです。就業規則の本格的な改定は、その後に進めても構いません。

Q2. 外部相談窓口を設けたいのですが、どのような専門家に頼むのがよいですか?

A. 一般的には、社会保険労務士、産業保健スタッフ(産業医・保健師など)、顧問弁護士などが候補になります。自社の規模や業種、予算に応じて、まずは顧問社労士や取引のある士業に相談し、「ハラスメント相談窓口」としての役割を担ってもらえるか確認してみるとよいでしょう。

Q3. カスハラ対策を強化すると、「お客様が離れてしまうのでは」と心配です。

A. 「正当なクレーム」への対応と、「行き過ぎた要求」に対する線引きを明確にすることで、むしろ多くの顧客にとって安心して利用できる会社になります。従業員を守る体制が整っている会社の方が、サービスの質も安定し、長期的には信頼が高まる傾向があります。社内外に対して、「従業員の安全とお客様への誠実な対応を両立します」というメッセージを発信していくことが大切です。

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