カスハラを現場任せにしない。電話・対面・取引先対応の3つのケースから考える会社の動き方

カスハラを現場任せにしない。電話・対面・取引先対応の3つのケースから考える会社の動き方【Day3】
「困ったら報告して、と伝えているのに相談が上がってこない」
「担当者から相談されたけれど、責任者もどう動くか分からない」
「大切な取引先なので、従業員に我慢してもらっている」
カスハラ対策では、方針を決めた後に、実際の場面で誰が何をするかを具体化することが大切です。
Day2では、正当な苦情とカスハラを区別する視点を確認しました。Day3では、電話・対面・取引先とのやり取りを題材に、会社としての支え方を考えます。
対応の基本は、安全を確保し、担当者を孤立させず、責任者が事実と対応方針を引き継ぐことです。
以下のケースと声かけは、説明用の仮想例です。個別事案の法的判断や、すべての業種に共通する対応手順を示すものではありません。自社の業務や契約、必要な配慮に合わせて検討してください。
1.ケース① 電話で侮辱的な言葉が続く
場面:説明をしても、担当者個人への攻撃が止まらない
商品に関する問い合わせを受けた従業員が、内容を確認しながら説明しています。しかし、相手は説明の途中で、担当者の能力や人格を否定する言葉を繰り返しています。
従業員は「自分で終わらせなければ」と考え、応援を求められずに対応を続けています。
担当者が確認すること
まず、問い合わせの内容と、実際に受けた言動を分けて整理します。説明できることと、責任者の確認が必要なことも区別しましょう。
負担が大きい場合は、一人で解決しようとせず、決められた連絡方法で応援や交代を求めます。
例えば、次のような声かけが考えられます。
「お問い合わせの内容は確認いたします。担当者への侮辱的な発言はお控えください。責任者と共有して対応いたします」
この言葉だけで解決するとは限りません。担当者が声かけをできる状態かも含め、責任者が支援することが必要です。
責任者が引き継ぐこと
責任者は、担当者に同じ説明を何度もさせないよう、問い合わせ内容、説明済みの事項、相手の言動を確認します。
そのうえで、会社として回答する内容、連絡窓口、今後の対応方法を整理します。
通話の終了や連絡方法の変更を検討する場合も、単に「長い電話だから」と判断せず、言動や経緯、未解決の問題、業務上の義務などを確認してください。
会社が用意した手順に沿って引き継げることが、担当者の支えになります。
2.ケース② 対面で威圧的な言動があり、担当者が離れられない
場面:返金の要望から、机をたたく行為に発展した
店舗や事務所で、顧客から返金を求められています。担当者が内容を確認しようとすると、相手が机を強くたたき、威圧的な態度を取り始めました。
担当者は出入口から離れた位置におり、周囲の従業員も、どう助けに入るか迷っています。
最初に優先するのは、人の安全
この場面では、返金の可否をその場で決めることより、安全の確保を優先します。
無理に説得を続けたり、相手を押さえつけたりせず、距離と退避経路を確保し、応援を求めましょう。周囲のお客様や利用者への影響も確認します。
暴力や切迫した危険がある場合は、上司の到着を待たず、避難や警察への緊急通報などが必要です。
会社が事前に決めておきたいこと
- 周囲へ応援を求める合図や連絡方法
- 担当者が離れるときに、誰が支援するか
- 責任者が不在の場合の連絡先
- 警察などへ連絡する場面と役割
- 他のお客様や利用者の安全を確保する方法
「何かあれば社長に電話して」だけでは、つながらないときに対応が止まってしまいます。
また、落ち着いて話すために場所を変える場合も、担当者を密室で一人にしないなど、安全面を確認してください。
返金などの本来の申入れについては、安全を確保したうえで、契約や事実に基づく確認を進めます。
3.ケース③ 取引先から、担当者個人への威圧が続く
場面:「取引を切る」と言われ、要求を断れない
取引先から、契約で想定していない追加作業を無償で求められています。
担当者が社内確認を申し出ると、「お前のせいで取引が終わる」「責任を取れるのか」と、個人を追い詰める言葉が続きました。
担当者は売上への影響を心配し、経営者へ十分に報告できずにいます。
契約の交渉と、従業員への言動を分けて確認する
追加作業の依頼や厳しい条件交渉が、すべてカスハラになるわけではありません。
会社は、契約の範囲、これまでの合意、自社の説明、求められた内容を確認します。同時に、担当者個人への脅しや侮辱などがないかも整理します。
そのうえで、担当者だけに交渉を続けさせず、経営者や権限のある責任者が窓口となる方法を検討しましょう。
例えば、次のように伝えることが考えられます。
「追加のご依頼は、契約内容と対応条件を社内で確認し、責任者から回答いたします」
経営者が判断を引き受ける
売上への影響、追加費用、契約の変更などは、担当者一人が背負う判断ではありません。
経営者は「大口先だから耐えて」と伝える前に、事実と対応の選択肢を確認しましょう。法的な問題が疑われる場合は、記録を整理して専門家へ相談します。
取引関係を守るためにも、会社同士で話し合うべき問題を、担当者個人への圧力に置き換えないことが大切です。
4.3つのケースに共通する、役割分担
どの場面でも、担当者・責任者・経営者がそれぞれの役割を理解していると、支援につなげやすくなります。
| 役割 | 主に担うこと |
|---|---|
| 最初に対応する担当者 | 安全を優先し、分かる範囲で事実を確認する。困った段階で応援を求める。 |
| 責任者・相談担当者 | 対応を引き継ぎ、事実と従業員の状態を確認する。次の対応を整理する。 |
| 経営者・権限のある管理者 | 会社としての判断、外部との連携、必要な人員や体制の整備を行う。 |
| 周囲の従業員 | 応援連絡、周囲の安全確保など、あらかじめ決めた役割で支援する。 |
少人数の事業所では、一人が複数の役割を担うこともあります。その場合も、不在時や対応できないときの代替方法を決めておきましょう。
5.相談を受けた後の最初の一言を見直す
従業員が相談してきたとき、最初の対応は、その後も報告できるかどうかに関わります。
「なぜうまく対応できなかったのか」と問い詰める前に、安全と体調を確認しましょう。
声かけの例として、次のような言葉があります。
- 「今、安全な場所にいますか」
- 「いったん交代しましょう。分かっていることを教えてください」
- 「一人で抱えずに知らせてくれてありがとう」
- 「体調や、この後の業務で配慮が必要なことはありますか」
相談を受け止めることと、事実関係を確認することは両立できます。最初から結論を決めず、落ち着いて確認を進めてください。
6.記録は、担当者を責めるためではなく、事実を引き継ぐために残す
対応記録には、「悪質だった」「怖かった」という評価だけでなく、確認できた事実を残します。
- 発生日時・場所・連絡手段
- 申入れのきっかけと要求内容
- 実際の発言や行動、継続時間、繰り返しの状況
- 会社側が説明したこと、提案したこと
- 応援・交代・外部連絡などの対応
- 従業員への影響と、その後に必要な支援
分からないことは、推測で埋めず「未確認」とします。担当者の受け止めは、事実の記録と区別して残しましょう。
録音や映像を利用する場合は、取得・利用・保管のルールや個人情報の取扱いを確認してください。記録のために危険な場所へとどまる必要はありません。
7.対応が終わってからも、従業員への配慮を続ける
電話を終えた、相手が帰った、取引先へ回答した。それだけで、従業員の負担が解消するとは限りません。
必要に応じて休憩や担当変更などを検討し、体調や業務への影響を確認しましょう。
相談内容や健康状態は、必要な範囲で共有し、周囲へ不用意に広めないことも大切です。
その後は、同じ事態を防ぐために、説明資料、引継ぎ方法、人員配置、責任者の判断手順などを振り返ります。
「担当者がもっと強くなればよい」で終わらせず、会社の対応を改善する材料にしましょう。
今日できること:責任者が不在の場面を想定する
自社で起こりそうな場面を一つ選び、次の問いを確認してみてください。
- 最初の担当者は、どうやって応援を求めるか。
- 責任者につながらない場合、誰に連絡するか。
- その場で約束してよいことと、確認が必要なことは何か。
- 対応後の記録と、従業員の支援は誰が行うか。
答えが曖昧な項目があれば、そこが体制を見直す出発点です。実際に担当する従業員の意見も聞きながら、使える手順を考えましょう。
よくある質問
Q.カスハラと確定する前でも、交代してよいですか?
A.担当者の負担や安全、対応の状況を踏まえて交代を検討できます。法的な該当性の結論が出るまで、一人で対応を続けさせる必要はありません。
Q.責任者が対応すれば、必ず解決しますか?
A.必ず解決するとは限りません。責任者が引き継ぐ目的は、会社として事実を確認し、権限に応じた判断と従業員への支援を行うことです。
Q.謝罪は、しないほうがよいのでしょうか?
A.謝罪を一律に禁止する必要はありません。確認できた自社の問題には適切に対応し、未確認の責任や補償まで担当者が約束しないようにします。
Q.相手の言動を、社内で広く共有したほうがよいですか?
A.再発防止に必要な情報は共有しつつ、個人情報や相談者のプライバシーに配慮してください。誰に何を共有するかを整理しましょう。
まとめ+要約
電話・対面・取引先対応のいずれでも、担当者の我慢に頼らず、安全確保、引継ぎ、会社としての判断、対応後の支援をつなげることが大切です。
- 問い合わせや契約上の問題と、不当な言動への対応を分けて考えましょう。
- 担当者が迷った段階で、応援や交代を求められるようにしましょう。
- 責任者不在時の連絡先と、判断できる人を決めておきましょう。
- 記録は事実と受け止めを分け、必要な範囲で管理・共有しましょう。
- 対応終了後も、従業員への配慮と再発防止を進めましょう。
次回は、自社のカスハラ対策を整える手順をまとめます
Day4では、方針、相談窓口、対応手順、周知などを、どの順番で整えるかを整理します。
今ある苦情対応の仕組みを確認しながら、小さな会社でも実際に使える体制へつなげていきましょう。
現場任せになっている対応を、会社の仕組みとして整理したい方へ。
「責任者不在時の動き方を決めたい」「従業員を守る対応を事業継続の視点から考えたい」という方は、LINEで相談するから気軽にご相談ください。
法令の適用や個別事案の判断は、労働局、社会保険労務士、弁護士など、内容に応じた窓口・専門家にご確認ください。
参考情報
本記事は2026年10月20日時点の公表情報に基づく一般的な解説です。掲載したケースや声かけは説明用の例であり、個別事案の法的判断を示すものではありません。実際の対応は、最新の法令・指針、業種や契約上の義務、具体的な事情を踏まえて検討してください。