社長が不在、システムが停止、担当者が休み。そのとき「決めてある会社」はどう動く?【Day3】

「普段は問題なく回っているから、マニュアルは後でよい」

「何か起きても、詳しい人に聞けば分かる」

「少人数なので、わざわざ役割を決めなくても大丈夫」

日常の仕事が順調なときは、こう感じることもあるでしょう。

しかし、いつもの人がいない、いつもの道具が使えないという状況になると、それまで見えていなかった曖昧さが表に出る場合があります。

Day2では、「必ず守ること」「現場で選べること」「責任者へ確認すること」を分ける方法を確認しました。

Day3では、3つの具体例を通して、役割や基準を決めておくことが、実際の判断にどう役立つかを考えます。

以下は説明用の仮想ケースです。実際の対応は、業種、法令、契約、自社の権限や安全上の条件を踏まえて検討してください。

1.ケース① 社長が不在で、急ぎの判断が必要になった

場面:納品の遅れについて、取引先から回答を求められる

配送の遅れが判明し、取引先から「今日中に届くのか、代わりの方法はあるのか」と問い合わせが入りました。

社長は外出中で連絡がつかず、担当者は追加費用をかけて別の方法を手配してよいか迷っています。

役割や権限が曖昧な場合

担当者は社長へ連絡を繰り返しますが、回答できません。別の従業員も同じ配送会社へ確認し、情報が重複します。

一人は「何とか本日中に届けます」と伝え、別の人は「社長の確認が必要です」と説明してしまうかもしれません。

判断の遅れに加えて、会社としての説明がそろわない問題が生じます。

判断者と確認事項が決まっている場合

担当者は、遅延の状況、対応できる代替案、費用、取引先への影響を整理し、社長不在時の判断者へ共有します。

その人が決められる範囲なら対応を進め、範囲を超える場合は、あらかじめ決めた次の確認先へ連絡します。

取引先には、分かっている事実と、次に連絡する予定を伝えます。確認できていない到着時刻を、安易に約束しないことも大切です。

事前に決めたいのは、すべての遅延への答えではなく、誰が、何を確認して、どこまで判断できるかです。

このケースで整理したいこと

  • 通常の判断者と、不在時の代替者
  • 追加費用や代替手配についての承認範囲
  • 取引先への連絡担当者
  • 未確認の事項と、確認できた事項の区別
  • 対応結果の記録と共有方法

2.ケース② システムが停止して、いつもの仕事ができない

場面:顧客情報と受注状況を確認できなくなった

朝から業務システムへ接続できず、受注処理や問い合わせ対応が進められなくなりました。

原因も復旧時刻も、まだ分かりません。

代替方法が曖昧な場合

ある従業員は再起動を繰り返し、別の従業員は手元にある古い情報で対応しようとします。

仕事を止めたくない気持ちから、個人の端末や未承認のサービスへ情報を移そうとする可能性もあります。

その結果、情報の食い違いや、復旧後の二重処理など、別の問題につながるおそれがあります。

確認先・優先業務・代替手順が決まっている場合

まず、社内の連絡先へ障害を報告し、保守先などへの問い合わせ窓口をそろえます。

そのうえで、今すぐ対応が必要な業務と、正確な情報を確認できるまで保留する業務を分けます。

承認済みの代替手順が使える場合は、その条件と記録方法に沿って進めます。復旧後に、代替手順で受け付けた内容を照合する役割も必要です。

不審な画面や挙動などがあり、サイバー攻撃の可能性がある場合は、通常の故障と同じ扱いで自己流の操作を進めず、定めた対応手順と専門担当者の指示に従います。

「何とか続ける」だけでなく、「何を止め、何を守りながら続けるか」を決めておくことが重要です。

このケースで整理したいこと

  • 障害を報告する先と、保守先へ連絡する担当者
  • 優先して対応する業務と、保留する業務
  • 利用できる代替手段と情報管理の条件
  • 顧客へ案内する内容の確認方法
  • 復旧後の照合、処理漏れ・重複の確認担当

3.ケース③ 詳しい担当者が、急に休むことになった

場面:締切のある手続きを、その人しか把握していない

ある担当者が、体調不良で急に休むことになりました。

ところが、その日に必要な手続きの進捗、資料の保存場所、取引先との約束を、ほかの人が十分に把握していません。

本人の記憶に頼っている場合

周囲は資料を探しながら、休んでいる本人へ何度も連絡します。本人も気になって休めず、断片的な説明で仕事をつなごうとします。

担当者が経験を重ねるほど仕事が集まり、さらに代わりがいなくなることもあります。

引継ぎ情報と代替担当者が決まっている場合

共有された進捗記録で、期限、完了した作業、未確認事項を確認します。

代替担当者は、自分が扱える範囲と必要な承認を確認し、対応できない部分は責任者へ相談します。期限変更などが必要なら、権限のある人が調整します。

本人のパスワードを借りるなどの方法に頼らず、必要な権限を正規の手続きで用意しておくことも大切です。

資格や専門性が必要な業務は、手順書があるだけで誰でも代行できるとは限りません。代替者の力量や権限も確認してください。

引継ぎの仕組みは、担当者が安心して休める環境づくりにもつながります。

このケースで整理したいこと

  • 業務の期限、進捗、未確認事項の共有方法
  • 必要な資料の保存場所
  • 代替担当者の知識・技能とアクセス権限
  • 代行できない場合の調整方法
  • 特定の人へ負担が集中していないかの確認

4.3つのケースに共通するのは「判断に必要な情報」

責任者不在、システム停止、急な欠勤は、起きていることが異なります。

それでも、対応を支える準備には共通点があります。

日常のトラブルとBCPに共通する確認事項
確認すること 決めておく意味
守るもの・優先する業務 限られた人員や時間を、どこに振り向けるか判断しやすくする
判断者と代替者 特定の人につながらなくても、次の確認へ進めるようにする
必要な情報の場所 記憶や個人の手元だけに頼らず、事実を確認できるようにする
代替方法と利用条件 守る基準を確認したうえで、別の方法を選べるようにする
連絡・記録の担当 説明の食い違いや、対応の抜け・重複を抑える

日常のトラブル対応とBCPは、まったく同じものではありません。

ただし、普段の業務で見つかった「一人にしか分からない」「判断先がない」といった問題は、事業継続を考えるうえでも確認する価値があります。

5.「詳しい人が何とかする」から、知識を共有する仕組みへ

経験のある従業員の判断や工夫は、会社の大切な力です。

その力を生かすには、本人がいるときだけ使える状態から、ほかの人も確認・相談できる状態へ少しずつ広げていくことが役立ちます。

例えば、よくある問い合わせの確認先、作業の注意点、判断に迷いやすい条件などを、短い手順や事例として残します。

すべての知識を一度に文書化する必要はありません。止まると影響の大きい仕事から取り組みましょう。

推進担当者だけでは決められないこともある

文書をまとめる人は、現場の情報を集め、足りない部分を整理できます。

一方、優先業務、追加費用、代替者への権限などは、経営者や承認者の判断が必要です。

推進担当者に「何とか作って」と任せるだけでなく、判断が必要な事項を経営者へ上げる流れを決めてください。

6.決めた内容は、短い想定確認で試してみる

文書に書かれた手順が、本当に使えるかを確かめる方法として、机上での確認があります。

関係者で一つの場面を想定し、「最初に何をするか」「誰へ連絡するか」を順番に話してみましょう。

例えば、「担当者も責任者も不在で、システムも使えないとしたら」と、条件を一つ追加してみます。

答えが出ない箇所は、誰かの能力不足と決めつけず、役割や情報が足りない部分として記録します。

内閣府の事業継続ガイドラインでも、経営者の関与、代替戦略、教育・訓練、点検・改善などを含む取組が示されています。

想定確認で分かったことを、必要な承認を経て文書や体制へ反映しましょう。

今日できること:「その人がいないと困る仕事」を一つ選ぶ

次の順番で、自社の仕事を一つ振り返ってみてください。

  1. 担当者が一日不在になると、困る仕事を一つ選ぶ
  2. 何が分からなくなるかを書き出す
  3. 確認できる資料と、確認先を探す
  4. 代替担当者が対応できる範囲を確認する
  5. 足りない情報や権限を、誰が整えるか決める

一人で営む事業では、自分が対応できない場合の顧客連絡、外部への相談、業務を止める判断などに置き換えて考えられます。

資料を共有するときは、必要な人だけが確認できるようにするなど、情報管理の条件も合わせて確認しましょう。

よくある質問

Q.日常の小さなトラブルまで、BCPに書く必要がありますか?

A.すべてをBCPへ詰め込む必要はありません。通常の業務手順で扱う内容と、重要業務の継続・復旧に関わる内容を整理し、必要な文書同士をつなげましょう。

Q.代替担当者を決めれば、それで十分ですか?

A.名前だけでなく、必要な知識、権限、資料へのアクセス、実際に対応できる時間なども確認する必要があります。

Q.現場で工夫して解決した方法は、すぐ全社に広めてよいですか?

A.まず、その方法の条件や影響を確認しましょう。安全、法令、契約、情報管理などに問題がないかを確認し、必要な承認や周知を経て反映してください。

Q.ルールがあれば、必ず早く復旧できますか?

A.被害や利用できる人員・設備などによって異なります。事前の準備は判断を支えるものですが、復旧結果を保証するものではありません。実際の状況を踏まえた判断と見直しが必要です。

まとめ+要約

決めておく効果は、想定どおりの答えを用意することだけではありません。いつもの人や方法が使えないときに、次の判断へ進める状態を作ることにあります。

  • 責任者不在時は、代替判断者と権限の範囲が対応を支えます。
  • システム停止時は、優先業務と安全な代替手順を確認します。
  • 担当者の急な休みには、進捗情報、資料、代替者の力量・権限が必要です。
  • 推進担当者の整理と、経営者の判断をつなげましょう。
  • 想定確認で見つけた不足を、文書と運用の改善へ反映しましょう。

次回は、BCPや規程・マニュアルを整える手順をまとめます

Day4では、現状の洗い出しから、担当者の決定、文書化、試行、改定までの進め方を整理します。

「何から始めればよいか分からない」を、具体的な作業へ変えていきましょう。

特定の人に頼っている仕事や、曖昧な判断を整理したい方へ。

「担当者が休むと仕事が止まる」「BCPと日常のマニュアルをどうつなげるか考えたい」という方は、LINEで相談するから気軽にご相談ください。

法令への適合や規程の制定・改定手続きは、内容に応じて所管行政機関や社会保険労務士、弁護士などへご確認ください。

参考情報

本記事は2026年10月25日時点で確認した公表資料に基づく一般的な解説です。ケース、役割分担、確認方法は説明用の参考例です。実際の対応は、法令、契約、社内規程、業務の専門性などを踏まえて検討してください。