職場は熱中症対策をしていますか?「水を置くだけ」では守れない時代へ

はじめに

「飲み物は自由に飲めるようにしているから大丈夫」

「暑くなったら、各自で休んでもらっている」

「具合が悪くなったときの連絡先は、みんな知っているはず」

そのように考えている職場は、決して少なくありません。

しかし、最近の暑さは、これまでの経験だけでは判断できないほど厳しくなっています。 屋外の建設現場や警備業だけでなく、工場、倉庫、厨房、配送、清掃、農作業、 エアコンの効きにくい事務所などでも、熱中症が起きる可能性があります。

2025年6月1日からは、一定の暑い環境で作業を行わせる事業者に対し、 熱中症の早期発見につながる報告体制や、重症化を防ぐための対応手順を整え、 働く人へ知らせることが義務付けられました。

ただし、ここで注意したいのは、 連絡ルールや対応手順を紙に書くだけでは十分とは限らない という点です。

本当に必要なのは、熱中症を起こさせない職場環境と、 異変が起きたときに迷わず動ける仕組みです。

目次

  1. 職場の熱中症は身近な労働災害
  2. 2025年から何が変わったのか
  3. 「ルールを作ったから安心」が危険な理由
  4. 最初に確認したい職場の状態
  5. 今日から始める第一歩

1.職場の熱中症は身近な労働災害です

厚生労働省によると、2025年に職場で熱中症となり、 死亡または4日以上休業した人は1,803人でした。 前年より約43%増え、統計を取り始めた2005年以降で最多となっています。 死亡者は19人でした。

「熱中症は、真夏の屋外で働く人だけの問題」と思われがちです。

しかし、実際には製造業、建設業、商業、運送業、警備業、清掃業、農業など、 さまざまな業種で発生しています。 2025年の死亡事例には、屋内作業中に発症したケースも含まれています。

たとえば、次のような職場では注意が必要です。

  • 工場内に熱を出す機械がある
  • 倉庫内に冷房がない
  • 厨房で火や蒸気を使う
  • 配送中に車内外を何度も行き来する
  • 清掃時には建物の冷房が止まっている
  • 日当たりのよい窓際だけ室温が高い
  • エアコンが古く、十分に冷えない
  • 少人数のため、一人で作業する時間がある

見た目には普通の職場でも、湿度、風通し、服装、作業量、体調などが重なると、 危険性は大きくなります。

2.2025年から何が変わったのでしょうか

新しいルールでは、熱中症になるおそれがある作業を行う場合、 事業者には主に次の対応が求められます。

一つ目は、本人が異変を感じたときや、周囲の人が異変に気づいたときに、 すぐ報告できる体制を作り、関係者へ知らせることです。

二つ目は、熱中症が疑われる人を作業から離す、身体を冷やす、 医療機関へつなぐといった対応手順をあらかじめ決め、 関係者へ知らせることです。

対象となるのは、基本的に、暑さ指数であるWBGTが28度以上、 または気温が31度以上となる場所で、連続して1時間以上、 または1日4時間を超えて行うことが見込まれる作業です。 実際の適用は作業環境や作業時間によって判断されます。

WBGTとは、気温だけでなく、湿度、風、周囲から受ける熱なども含めて、 暑さの危険度を示す数字です。

つまり、温度計が示す気温だけを見て 「31度未満だから大丈夫」と判断するのは危険です。 湿度が高い、風がない、熱源が近いといった環境では、 気温以上に身体へ負担がかかります。

3.「ルールを作ったから安心」が危険な理由

今回の義務化で特に注目されているのは、報告体制と緊急時の手順です。

しかし、この二つは、熱中症を予防する対策の一部にすぎません。

たとえば、職場が次のような状態だったらどうでしょうか。

  • エアコンが故障したままになっている
  • 暑さ指数を測っていない
  • 忙しくて休憩を取りにくい
  • 水分を取ると作業が遅れる雰囲気がある
  • 体調不良を申し出ると迷惑をかける空気がある
  • 一人作業のため、倒れても発見されにくい
  • 冷房のある休憩場所まで遠い
  • 管理者が熱中症の症状を理解していない

この状態で「具合が悪くなったら上司へ電話してください」 という紙を貼っても、十分な対策とはいえません。

手順書は大切ですが、手順書を使う場面そのものを減らすことが、 より重要です。

厚生労働省のガイドラインでも、WBGT値の把握、冷房や通風設備の整備、 休憩場所の確保、作業時間の短縮、水分・塩分補給、 健康状態の確認など、幅広い対策が示されています。

4.最初に確認したい職場の状態

まずは、職場を歩いて次の点を確認してみてください。

室温ではなく、働く場所を確認する

事務所の温度計が適温でも、倉庫、厨房、機械のそば、屋上、 車庫、窓際などは、まったく違う環境になっていることがあります。

管理者が普段座っている場所ではなく、 実際に働く人が長くいる場所で確認することが大切です。

エアコンが動くかではなく、効いているかを見る

電源が入っているだけでは十分ではありません。

フィルターの詰まり、冷媒の不足、能力不足、室外機の不具合、 日差しの影響などにより、必要な冷房効果が得られていない場合があります。

休憩できる雰囲気があるかを見る

制度上は休憩できても、「忙しいから休めない」 「自分だけ抜けにくい」という状態では、 実際の対策として機能しません。

異変に気づける人がいるかを見る

一人作業、巡回作業、運転業務、離れた場所での作業では、 本人が助けを求められなくなる可能性があります。

定時連絡、巡回、二人一組、携帯電話など、 作業に合った確認方法が必要です。

5.今日から始める第一歩

まずは難しい書類を作るより、次の三つを行ってください。

  1. 暑くなる場所と時間帯を洗い出す
  2. エアコン、換気、日よけ、休憩場所を確認する
  3. 体調不良が起きたときの連絡先と対応者を決める

大切なのは、「うちでは今まで事故がなかった」という過去ではなく、 これからの暑さに耐えられる職場かどうかです。

まとめ+要約

2025年6月1日から、一定の高温環境で働かせる事業者には、 熱中症の報告体制や緊急時の対応手順を整え、 関係者へ周知することが義務付けられました。

ただし、対策はルール作りだけで終わりではありません。

エアコンや換気設備の確認、WBGT値の把握、休憩時間の確保、 水分・塩分補給、一人作業への対応など、 熱中症を起こさないための環境整備が必要です。

最初の一歩は、実際に働く場所を確認し、 「どこで、誰が、いつ危険になるか」を洗い出すことです。

FAQ

Q1.事務所で働く会社も対象になりますか?

事務所であっても、室温や湿度が高い、冷房が十分に効かない、 長時間暑い環境で作業するといった場合には、熱中症の危険があります。 業種名だけで判断せず、実際の作業環境を確認することが大切です。

Q2.水やスポーツドリンクを置けば十分ですか?

水分補給は重要ですが、それだけでは十分ではありません。 暑さの把握、作業時間の調整、休憩場所、冷房や換気、 体調確認、緊急時の対応などを組み合わせる必要があります。

Q3.従業員が「大丈夫」と言えば作業を続けてもよいですか?

本人が大丈夫と言っても、判断力が低下している可能性があります。 ふらつき、受け答えの異常、頭痛、吐き気、大量の発汗などがあれば、 いったん作業から離し、身体を冷やし、 症状に応じて救急要請や医療機関への相談を行うことが重要です。