大地震が起きたとき、BCPがある会社とない会社では何が変わるのか

はじめに

大きな地震が起きたとき、会社では短時間のうちに多くの判断を迫られます。

従業員の安否をどう確認するのか。
お客様には誰が連絡するのか。
建物に入れない場合、仕事をどこで続けるのか。
社長と連絡が取れない場合、誰が判断するのか。

平常時であれば、落ち着いて相談しながら決められることも、災害発生直後は簡単ではありません。

電話がつながらないかもしれません。停電しているかもしれません。従業員自身や、その家族が被災している可能性もあります。

そのような混乱の中で、会社と従業員、取引先を守るために役立つのがBCPです。

BCPは、大企業だけがつくる立派な災害対策マニュアルではありません。中小企業にとっては、限られた人員や設備の中で「何を優先し、どのように事業を立て直すか」を事前に考えておく経営の準備です。

1.BCPとは何か

BCPとは「事業継続計画」のことです。

大地震や水害、感染症、火災などが起きた際に、重要な仕事をできるだけ止めないため、または止まった仕事を早く再開するための考え方や対応を整理した計画です。

例えば、次のような内容を決めます。

  • 従業員の安全をどのように確認するか
  • 最優先で再開する商品やサービスは何か
  • 誰が緊急時の責任者になるか
  • パソコンや社屋が使えないときはどうするか
  • 仕入先が止まった場合、代わりをどう確保するか
  • お客様や取引先に誰が連絡するか

中小企業庁は、BCPを緊急時に行うことと、平常時に備えて行うことを事前に整理する取り組みとして説明しています。また、BCPは特別なものではなく、日常の経営を見える化する延長線上にあるとしています。

2.BCPがない会社で起こりやすいこと

BCPがないからといって、必ず会社が立ち行かなくなるわけではありません。

しかし、何も決めていない状態では、災害発生後に次のような問題が起こりやすくなります。

判断が社長に集中する

中小企業では、社長に情報と判断が集中していることが少なくありません。

ところが、地震発生時に社長が移動中だったり、通信が途絶えたり、家族への対応をしていたりすると、現場は指示を受けられなくなります。

社員は「勝手に決めてよいのか」と迷い、必要な行動が遅れます。

従業員の安全確認に時間がかかる

連絡手段や報告先を決めていないと、電話、メール、個人のSNSなど、連絡方法がばらばらになります。

管理する側も、誰の安全が確認できていて、誰が未確認なのかを把握しにくくなります。

重要ではない仕事から再開してしまう

災害時には、人員、電力、設備、材料などが不足します。

すべての仕事を一度に元へ戻そうとすると、限られた資源が分散してしまいます。その結果、本当に優先すべき商品や、大切な取引先への対応が遅れることがあります。

取引先への説明が遅れる

事業を再開できる見込みが分からないまま連絡が遅れると、取引先は別の会社への発注を検討せざるを得ません。

被災したこと自体よりも、「連絡が取れない」「いつ再開するか分からない」という状態が、信用低下につながることがあります。

3.BCPがある会社のメリット

従業員と家族の安全を守りやすくなる

BCPの第一の目的は、売上を守ることだけではありません。

まず、人の安全を守ることです。

避難方法、安否確認、出社の基準などを事前に共有しておけば、従業員は災害発生時に会社からの細かな指示を待たず、安全を優先して行動しやすくなります。

判断が速くなる

災害時に必要なのは、完璧な判断ではなく、その時点で得られる情報をもとにした速やかな判断です。

責任者や代行者、優先業務を決めておけば、現場が「誰の判断を待てばよいのか」で迷いにくくなります。

重要な仕事を早く再開できる

どの商品、サービス、顧客対応を優先するか決めておくことで、限られた人員や設備を集中できます。

中小企業庁のBCP指針でも、災害時には限られた人員や資機材の中で、優先する商品やサービスをあらかじめ決めることが重要とされています。

取引先からの信用につながる

「災害時にも絶対に事業を止めません」と約束することはできません。

しかし、「緊急時の連絡方法を決めている」「代替手段を検討している」「定期的に訓練している」と説明できれば、取引先に安心材料を示せます。

中小企業庁は、BCPの策定と運用により、顧客の維持や獲得、企業信用の向上などが期待できるとしています。

平常時の経営課題も見つかる

BCPを考えると、普段は見えにくい問題が表面化します。

例えば、次のような問題です。

  • 特定の社員しかできない作業がある
  • 重要データが一台のパソコンにしかない
  • 仕入先が一社に集中している
  • 顧客情報が整理されていない
  • 社長が不在になると承認が止まる

これらは災害時だけでなく、退職、病気、機器の故障など、日常の経営にも影響する問題です。

BCPづくりを通じて業務の弱点を発見し、改善できることは、大きなメリットです。

4.計画の目的は会社を縛ることではない

「細かく決めると、現場が窮屈になるのではないか」と感じる経営者もいるでしょう。

しかし、BCPの目的は、すべての行動を細かく固定することではありません。

むしろ、最低限の判断基準を共有し、現場が状況に合わせて動きやすくすることです。

例えば、次の二つだけでも大きな意味があります。

  • 人命と安全を最優先する
  • 重要顧客への連絡と中核事業の復旧を優先する

このような基本方針が共有されていれば、想定外の出来事が起きても、社員は会社の考え方に沿って判断しやすくなります。

計画とは、行動を縛る鎖ではありません。

迷ったときに進む方向を示す、地図のようなものです。

5.最初に決めておきたいこと

最初から分厚い計画書をつくる必要はありません。

まずは、次の五つを整理するところから始められます。

  1. 従業員の安全をどう確認するか
  2. 最優先で守る商品やサービスは何か
  3. 緊急時に誰が判断するか
  4. 建物や設備が使えない場合どうするか
  5. 取引先へ誰が連絡するか

一度で完璧にする必要はありません。

最初の計画は、会社が災害対策について話し合うための「たたき台」で十分です。

まとめ+要約

BCPとは、大地震などが発生したときに、従業員の安全を守り、重要な仕事をできるだけ早く再開するための準備です。

BCPを定めることで、判断の遅れや連絡の混乱を減らし、限られた人員や設備を重要業務へ集中しやすくなります。

また、BCPづくりを通じて、特定の社員への依存、データ管理、仕入先の集中といった、平常時の経営課題も見つけられます。

計画の目的は、現場を窮屈にすることではありません。災害時に迷いを減らし、状況に合わせて判断できる土台をつくることです。

FAQ

Q1.小さな会社にもBCPは必要ですか?

必要性はあります。人数が少ない会社ほど、一人の不在や一台の機器の故障が事業全体に与える影響が大きいためです。ただし、大企業と同じ規模の計画書をつくる必要はありません。

Q2.防災マニュアルとBCPは同じですか?

完全に同じではありません。防災マニュアルは避難や初期消火など、人命と安全を守る行動が中心です。BCPは安全確保に加えて、重要な仕事をどのように続け、復旧するかまで考えます。

Q3.どの程度まで細かく決めるべきですか?

最初は、安否確認、責任者、優先業務、代替手段、取引先への連絡方法から始めるとよいでしょう。細かい内容は訓練や話し合いを重ねながら追加します。