サプライチェーンのリスクは小さな会社にも関係する?SCS評価制度を前に考えたいこと

「サプライチェーンと聞くと、大きなメーカーの話に思える」「うちは少人数で仕事をしているから、関係ないのではないか」。そう感じる経営者や個人事業主の方もいるでしょう。

しかし、仕入れ先、取引先、配送会社、外注先、インターネット上のサービスなどを利用しているなら、事業はほかの会社や人とつながっています。そのつながりのどこかで問題が起きると、自社の仕事にも影響が及ぶことがあります。

サプライチェーン起点のリスクを考える第一歩は、「自社の仕事は何に支えられ、止まると誰に影響するか」を知ることです。最初から難しい対策をそろえる必要はありません。Day1では、言葉の意味と、小さな事業にも関係する理由を整理します。

そもそもサプライチェーンとは何でしょうか

サプライチェーンとは、商品やサービスをお客様へ届けるまでの、仕事や取引のつながりです。

例えば飲食店なら、食材の生産者、仕入れ先、配送会社、店舗、利用するお客様が関係します。製造業なら、材料の調達、加工、部品の供給、組み立て、販売などがつながっています。

ただし、物を作る会社だけの話ではありません。相談業や制作業などのサービス業にも、仕事を支えるつながりがあります。

  • 仕事を依頼するお客様や取引先
  • 業務の一部を任せる外注先
  • メールやデータ保存に使うクラウドサービス
  • 予約、決済、請求に使うシステム
  • パソコンやネットワークを管理する事業者

一人で仕事をしていても、こうした相手やサービスに支えられている場合があります。従業員の人数と、外部とのつながりの多さは、必ずしも同じではありません。

「うちの会社だけでやっているから関係ない」と言い切れない理由

「商品を作るところから販売まで、自社で行っています」という会社でも、電力、通信、材料、機器、決済などをすべて自前で用意しているとは限りません。

個人事業主が一人で資料を作り、お客様へ納品する場合も、メールやオンラインの保存先が使えなくなれば、仕事が進まないことがあります。

次の三つを考えてみてください。

  1. どの会社やサービスが止まると、自社の仕事が困りますか。
  2. 自社が止まると、どのお客様や取引先が困りますか。
  3. 誰と、どのような情報をやり取りしていますか。

答えが一つでもあれば、事業のつながりを通じたリスクを考える意味があります。

サプライチェーン起点のリスクには二つの方向がある

1.外部の問題が自社へ影響する

仕入れ先の災害で材料が届かない。配送の遅れで納品できない。利用しているサービスの障害で予約を確認できない。こうした問題は、自社の中だけを整えていても起こり得ます。

サイバー攻撃の場合も、委託先や利用するサービスで起きた問題が、自社の業務停止や情報の漏えいにつながることがあります。

2.自社の問題が取引先へ影響する

反対に、自社で受発注データが使えなくなると、取引先の仕事を止めてしまうかもしれません。預かっている情報が漏れれば、その情報の持ち主にも影響します。

つまり、「自社を守ること」と「取引相手に影響を広げないこと」は、つながっているのです。

ここで大切なのは、すべての問題を防ぐと約束することではありません。どこに影響が及びそうかを把握し、予防、連絡、復旧の準備を進めることです。

新しい圧力は「対策を説明してほしい」という取引先の要請

サプライチェーンのリスクでは、事故そのものへの備えに加えて、取引先から対策状況を尋ねられる場面も考える必要があります。

IPAは、委託元が委託先のセキュリティ対策を把握しにくいことや、委託先が複数の取引先から異なる要求を受け、負担が大きくなることを課題として挙げています。

小さな事業者にとっては、質問票への回答や、社内のルールの確認も負担になります。それでも、取引先が知りたいのは、多くの場合「大きな会社と同じ設備があるか」だけではありません。預ける情報や任せる仕事に応じた対策が、実際に行われているかです。

今後の取引に備えるには、対策を実施するだけでなく、何をしているか説明できる状態を作ることが役立ちます。

SCS評価制度が始まる予定です

SCS評価制度は、正式には「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」といいます。企業間の取引に関係するサイバーリスクについて、必要な対策と実施状況を共通の基準で確認しやすくするための制度です。

制度では、委託元が委託先へ適切な段階を示し、その段階に応じた対策の実施を促して確認することが想定されています。

2026年10月2日時点では、経済産業省は申請受付の開始を2026年度末頃、つまり2027年1月から3月頃と案内しています。IPAのFAQでは、★3・★4の運用開始を2027年3月頃としています。いずれも予定です。

制度開始と、すべての会社が一律に取得を求められることは別です。自社にどの段階が必要かは、取引先からの要請や、任される仕事、扱う情報などを踏まえて確認します。

また、SCS評価制度が扱う中心はサイバーセキュリティです。災害、仕入れの停止、配送の遅れなど、サプライチェーンに関係するすべてのリスクを、この制度だけで評価するわけではありません。

制度の詳しい仕組みはDay2で整理します。Day1では、「取引のつながりの中で、対策を共通の基準で説明する仕組みが準備されている」と理解しておきましょう。

説明用の例:一人で営む制作業でも影響が広がる

ここからは仮想ケースです。実在する事業者の事故を紹介するものではありません。

一人で制作業を営む事業主が、取引先から受け取った資料をオンラインで保存し、メールで納品しているとします。

もし業務用メールが使えなくなれば、納品や連絡が遅れる可能性があります。アカウントが不正に利用されれば、その事業主になりすましたメールが取引先へ送られることも考えられます。

この場合、影響を考えるために必要なのは、「一人だから大丈夫か」という問いではありません。

  • メールが使えないとき、別の連絡手段はあるか
  • 重要なデータを復旧できるか
  • 異常に気づいたとき、誰へ連絡するか
  • 預かっている情報の保存先と共有範囲を把握しているか

こうした確認からなら、小さな事業でも始められます。

同業他社との差別化は「安心を具体的に説明できること」

セキュリティ対策をしたからといって、必ず受注が増えるわけではありません。ただ、取引先から尋ねられたときに、情報の管理方法や緊急時の連絡方法を具体的に説明できれば、判断材料を提供できます。

例えば、「対策は万全です」と言うより、「共有する情報の範囲を決めています」「異常が起きたときの連絡先を整理しています」と、実際に行っていることを伝えるほうが、内容がわかります。

差別化を考えるなら、制度のマークを取得することだけを目標にせず、日々の仕事で対策を続け、説明できる状態を育てることが大切です。

今日できること:仕事のつながりを三つ書き出す

まずは、紙やメモに次の三つを書いてみてください。

  1. 仕事を支える相手:止まると困る仕入れ先、外注先、サービス
  2. 仕事を届ける相手:自社が止まると影響するお客様や取引先
  3. やり取りする情報:顧客情報、注文情報、図面、契約資料など

すべてを一度に調べる必要はありません。まず「ここが止まると困る」と思うものを一つ選び、代わりの方法や連絡先があるか確認しましょう。

まとめ

  • サプライチェーンは、商品やサービスを届ける仕事と取引のつながりです。
  • 小さな会社や個人事業主も、取引先や外部サービスとのつながりを持っています。
  • 外部の問題が自社に及ぶ場合と、自社の問題が取引先に及ぶ場合の両方を考えます。
  • SCS評価制度は、取引に関係するサイバーセキュリティ対策を確認しやすくする仕組みです。
  • 最初の一歩は、仕事を支える相手、影響する相手、やり取りする情報を書き出すことです。

よくある質問

Q. 工場がなくても、サプライチェーンに関係しますか?

はい。相談業や制作業などでも、取引先、外注先、クラウドサービスなどとのつながりがあります。物の流れだけでなく、仕事や情報の流れにも目を向けましょう。

Q. SCS評価制度が始まると、全社がすぐに取得しなければなりませんか?

制度開始だけで、すべての事業者に一律の取得が求められるわけではありません。自社の取引条件や、取引先から求められる段階を確認することが先です。

Q. SCS評価制度に対応すれば、災害による供給停止にも備えられますか?

SCS評価制度の中心はサイバーセキュリティです。災害や仕入れの停止への備えは、代替先や連絡方法などを別途考える必要があります。

Q. 専門知識がなくても、準備できますか?

仕事に使うサービス、扱う情報、止まると困る業務を整理することから始められます。そのうえで、判断が難しい対策は外部の支援者へ相談すると進めやすくなります。

次の記事

Day2では、SCS評価制度が何を確認する仕組みなのか、取引先から対策を求められたときに何を確かめればよいのかを、わかりやすく整理します。

📩 自社の仕事のつながりや、取引先から求められる対策を整理したい方は、LINEで相談するからお気軽にご相談ください。

参考資料

制度に関する情報は2026年10月2日時点の公表内容に基づいています。開始時期や手続きの最新情報は、経済産業省・IPAの公式サイトでご確認ください。