「BCPを決めると窮屈になる」は本当?現場が動きやすくなる計画のつくり方

はじめに

BCPを検討するとき、経営者や現場から出やすい不安があります。

「対応を細かく決めたら、自由に判断できなくなるのではないか」
「マニュアルを守ることが目的にならないか」
「想定外の地震では、決めた手順がかえって邪魔になるのではないか」

この心配は、もっともです。

実際、大規模地震が計画書に書いた条件とまったく同じ形で起こることはありません。

だからこそ、役立つBCPは、すべての行動を固定するものではなく、判断の基準と優先順位を共有するものとしてつくる必要があります。

1.細かすぎる計画が動きにくい理由

例えば、BCPに次のような内容が書かれていたとします。

「地震発生後30分以内に、総務部長が全従業員へ電話連絡する」

ところが、総務部長が被災していたり、電話回線が混雑していたりすれば、計画どおりには進みません。

それにもかかわらず、社員が「総務部長からの電話を待たなければいけない」と考えてしまうと、安全確認が遅れます。

問題は、計画をつくることではありません。

一つの人、一つの方法、一つの状況だけを前提にすることです。

現実に役立つ計画には、代わりの責任者や連絡手段、現場で判断してよい範囲が必要です。

2.BCPで決めるべきこと

BCPでは、すべての行動を細かく決めるより、次の三つを明確にすることが重要です。

守るもの

最初に守るものは、人命と安全です。

その次に、重要な顧客、商品、サービス、情報、設備など、自社の存続に欠かせないものを決めます。

優先順位

人員や設備が不足したとき、何から再開するのかを決めます。

「すべてのお客様を同じように対応する」ではなく、社会的な影響、契約上の重要性、売上への影響などを踏まえて順番を考えます。

判断する人

社長が不在の場合に誰が判断するかを決めます。

第一の代行者だけでなく、第二、第三の代行者まで決めておくと、特定の人に依存しにくくなります。

3.決めすぎないための考え方

細かな行動ではなく、判断条件を決める方法があります。

例えば、「震度5強なら全員出社する」と決めるのではなく、次のように考えます。

  • 自身と家族の安全が確認できている
  • 移動経路の安全が確認できている
  • 会社から出社要請がある
  • 公共交通機関や行政の案内に反しない

このように条件を示せば、地震の状況や地域の被害に合わせて判断しやすくなります。

また、災害時に従業員を無理に出社させることは、本人だけでなく家族や地域にも負担を与える可能性があります。

「出社すること」ではなく、「安全を確保しながら重要な仕事を再開すること」を目的にする必要があります。

4.現場に判断を任せる仕組み

現場へ判断を任せるためには、責任だけを渡してはいけません。

判断するための情報と権限も必要です。

例えば、次のような点を決めておきます。

  • 一定額までの緊急支出を誰が承認できるか
  • 顧客への納期変更を誰が伝えられるか
  • 通常と異なる仕入先を誰が選べるか
  • 業務停止を誰が判断できるか
  • 従業員を帰宅させる判断を誰が行うか

平常時には社長の承認が必要なことも、緊急時には現場責任者が判断できるようにしておくと、対応が速くなります。

これは、社員へ無制限な権限を与えることではありません。

「この条件なら、ここまで判断してよい」という範囲を決めることです。

5.実行しやすい計画のつくり方

一枚で確認できる内容をつくる

分厚い計画書だけでは、災害発生直後に必要な情報を探せません。

初動対応については、一枚程度で確認できるようにします。

例えば、次の内容です。

  • 安否確認の方法
  • 緊急連絡先
  • 責任者と代行者
  • 避難場所
  • 最優先業務
  • 取引先への連絡担当

複数の手段を用意する

連絡方法を電話だけにせず、メール、安否確認サービス、チャットなど複数用意します。

データも、社内サーバーだけでなく、適切な安全対策をしたクラウドや別拠点への保管を検討します。

現場の意見を入れる

経営者や総務だけでBCPをつくると、実際の作業に合わない内容になることがあります。

製造、営業、経理、店舗など、実務を知る人に参加してもらうことで、必要な設備や情報、代替手段が見つかりやすくなります。

例外を認める

計画には、次のような一文を入れる考え方もあります。

「人命と安全を最優先とし、実際の被害状況に応じて責任者が対応を変更する」

これにより、手順を守ることよりも、安全と事業継続という本来の目的を優先できます。

中小企業庁の指針でも、突発的な緊急事態がBCPの想定どおりに発生するとは限らず、的確な判断のためには事前の検討と継続的な訓練が必要だと説明されています。

まとめ+要約

BCPをつくると会社が窮屈になるのは、行動を細かく固定しすぎた場合です。

本来のBCPは、災害時に社員を縛るものではありません。

人命を最優先すること、重要な仕事から再開すること、誰がどこまで判断できるかを共有し、現場が動きやすくなるようにするものです。

一つの人や連絡手段に依存せず、代行者や代替手段を用意しましょう。

また、分厚い計画書だけでなく、初動対応を一枚で確認できるようにすることも有効です。

計画は絶対的な命令書ではなく、混乱の中で判断するための共通の地図です。

FAQ

Q1.社員の行動を細かく決めなくても大丈夫ですか?

すべてを細かく決める必要はありません。安全、優先業務、責任者、連絡方法など、判断の土台となる項目を明確にすることが重要です。

Q2.災害時は全員出社するように決めるべきですか?

一律の出社を前提にするのは適切でない場合があります。本人と家族、移動経路の安全を優先し、出社できない場合でも対応できる方法を検討しましょう。

Q3.現場に任せると判断がばらばらになりませんか?

判断の目的、条件、権限の範囲を決めておけば、ばらつきを減らせます。日頃から事例を使って話し合うことも有効です。